• Englishサイトへ
  • リンク集
  • お問い合わせ

JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第50回 最新学術情報

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「小児脊椎の組織球症:50例の臨床およびX線所見の分析」

Histiocytosis in the pediatric spine: a clinical and radiographic analysis of 50 patients.

Moyano CA, et al. Spine Deform. 2021 May;9(3):823-831.

【研究デザイン】記述的、後方視的。科学的エビデンスレベルIV。【目的】50例の小児の脊椎LCHを評価すること。LCHは、さまざまな臓器でのLCH細胞の異常増殖を特徴とするまれな疾患である。小児の発生率は100万人あたり2~10例である。現在、小児の脊椎LCHを評価した報告はほとんどない。【対象と方法】1984年~2016年に当院で治療された50例の小児の脊椎LCHを分析し、少なくとも2年間の追跡調査を行った。性別、年齢、臨床、X線所見を提示し、病変数、治療、合併症、転帰を評価した。【結果】50例(男児26例と女児24例)を評価した。年齢は平均5歳2か月(6か月~13歳3か月)であった。27例は単一の脊椎病変で、23例は2つ以上の脊椎病変を認めた。合計100か所の脊椎病変を認めた。胸椎病変が最も多かった。最も頻度の高い病変部位は椎体で88%にみられた。症状は、痛み(87%)、可動域の減少、変形、神経障害であった。生検は48例で行われた。39例が内科的治療を受け、28例が装具を使用し、6例が必要な手術を受けた。6例(12%)が平均3年5か月(範囲:2-12年)で再発した。全例で、神経障害、斜頸、変形、内科的または外科的治療後に消失した。【結論】単一の孤発性脊椎病変から多発性や多臓器病変に至るまで、さまざまな症状を呈するため、これらの患者を適切に管理し、良好な転帰を得るには、学際的なチームが必要である。

2)「LCHにおけるF-18-FDGPET/CT所見と従来の画像所見との間の不一致」

Discrepancies between F-18-FDG PET/CT findings and conventional imaging in Langerhans cell histiocytosis.

Ferrell J, et al. Pediatr Blood Cancer. 2021 Apr;68(4):e28891.

【背景】LCHの治療は、単一臓器型では保存的、中枢神経関連病変では減弱化学療法、多臓器または高リスク群では強力化学療法と、病型により様々であるため、正確なリスク層別化は不可欠である。さらに、代謝的に活動性病変と非活動性病変を区別することは、予後改善および不必要な治療回避のために不可欠である。【方法】2009年~2019年の間に、シンシナティ小児病院医療センター(CCHMC)で、組織病理学的に診断された全てのLCH患者を後方視的に分析した。【結果】177回のPET/CT画像を分析した。PET/CTと従来の画像との不一致を53件認めた。13件は従来の画像検査では検出されない病変部位にPETの取り込みが見られた。40件は従来の画像検査で病変を認めたがPETの取り込みは見られなかった。FDGの取り込みが見られた領域に、8回の骨X線スクリーニング検査、3回の他のX線検査、4回の診断時CT検査、5回の病変部位CT検査、1回の骨シンチ検査で、病変を確認できなかった。これらは全て骨病変であった。FDGの取り込みが見られない部位に、9回の骨X線スクリーニング検査、1回の他のX線検査、4回の診断時CT検査、6回の病変部位CT検査、19回のMRI検査、1回の骨シンチ検査で、病変が見られた。これらの部位は、骨、中枢神経、肺であった。【結論】F-18-FDG PET/CTは、従来の画像診断法では検出できないLCH病変の検出が可能で、代謝的に活動性と非活動性を鑑別可能であることを考えると、LCH病変の評価に不可欠である。MRI検査と診断時CT検査は、中枢神経病変と肺病変を確認するための補助的な検査としてPET/CTに加えて有用である。

3)「LCHにおけるT細胞疲弊の克服:PD-1遮断とMAPK阻害標的療法は、LCHマウスモデルに対して相乗的に効果を示す」

Overcoming T-cell exhaustion in LCH: PD-1 blockade and targeted MAPK inhibition are synergistic in a mouse model of LCH.

Sengal A, et al. Blood. 2021 Apr 1;137(13):1777-1791.

LCHは、恒常的にMAPK経路が活性化した病的なCD207陽性樹状細胞を伴う肉芽腫性病変を特徴とする炎症性骨髄腫瘍である。多臓器型に対しては標準的化学療法の効果は不十分であることが多く、再発や難治例に対する適切な治療戦略は定まっていない。LCH病変において炎症を惹起する機序、病態における炎症の役割、免疫療法が有効かは不明である。LCH病変に浸潤する免疫細胞の分析により、最も顕著な免疫細胞がTリンパ球であることが確認された。CD8陽性およびCD4陽性T細胞はどちらも、免疫チェックポイント受容体を高発現する「疲弊した」表現型であった。LCH樹状細胞は、チェックポイント受容体に対するリガンドを強発現していた。病変部のCD8陽性T細胞は、Tc1/Tc2サイトカインの発現が低下し、細胞傷害機能は低下していた。対照的に、病変部の制御性T細胞は抑制活性が低下していなかった。CD11cプロモータ下でBRAF V600Eを発現させたLCHモデルマウスに対し、抗PD-1やMAPK阻害剤を投与すると、病変は縮小し、明らかな反応が得られた。MAPK阻害剤によって骨髄系細胞が減少し、抗PD-1によってリンパ系細胞が減少した。特に、MAPK阻害剤と抗PD-1の併用によって、CD8陽性T細胞と骨髄性LCH細胞の両方が相乗的に有意に減少した。これらの結果は、骨髄性LCH細胞におけるMAPKの過剰活性化が、機能的に疲弊したT細胞をLCH微小環境への動員を促進するというモデルと一致しており、MAPK阻害薬とチェックポイント阻害薬の組み合わせが有効な治療戦略である可能性が明らかとなった。

4)「LCHにクローン病を合併する患者では、両者に共通してIL-23が関与している」

Patients with both Langerhans cell histiocytosis and Crohn's disease highlight a common role of interleukin-23.

Kvedaraite E, et al. Acta Paediatr. 2021 Apr;110(4):1315-1321.

【目的】ともに肉芽腫性疾患であるクローン病とLCHを合併した症例の最初のケースシリーズを提示し、クローン病で疾患関連因子としてよく知られているIL-23の役割をLCHにおいて分析した。【方法】LCHとクローン病を合併した3例を提示し、LCH患者55例と対照55例の血漿中IL-23値を分析し、LCHの7例において病変部のLCH細胞の割合と血漿中IL-23値の関連を解析した。【結果】ケースシリーズでは、これら2つの肉芽腫性疾患の鑑別は困難であることが明らかとなり、クローン病の診断に最大3年かかっていた。LCH患者ではIL-23値が高値であった。病変部のLCH細胞数は血漿中IL-23値と相関していた。【結論】炎症性消化管病変のある患者では、クローン病とLCHの両者を考慮する必要がある。IL-23経路は、これら2つの肉芽腫性疾患に共通する免疫学的特徴である。

5)「LCHにおいて、胎児性Fc受容体は免疫グロブリン静注による細胞増殖抑制を誘導する」

Neonatal Fc receptor induces intravenous immunoglobulin growth suppression in Langerhans cell histiocytosis.

Nabeshima Y, et al. Pathol Int. 2021 Mar;71(3):191-198.

胎児性Fc受容体(FcRn)は、細胞内に取り込まれたIgGやアルブミンのリサイクルに関わり、特定の疾患における免疫グロブリン静注療法に関与すると考えられている。IVIGは、LCHの治療としても使用されるが、メカニズムは不明である。FcRnメッセンジャーRNA(mRNA)の発現が報告されているが、FcRn蛋白の発現と機能はLCHにおいて研究されていない。免疫組織化学的にLCHと診断された30例中26例(86.7%)でFcRnの発現を確認した。発現は、年齢、性別、病変部位、多臓器型か単一臓器型か、BRAFV600E免疫染色陽性か陰性かで、違いはなかった。また、ヒトLCH様細胞株ELD-1においてFcRn mRNAおよび蛋白の発現を確認した。FcRnは、免疫グロブリン処理したELD-1細胞において、アルブミン消費と増殖を抑制したが、免疫グロブリン非処理のELD-1細胞やFcRnノックダウンELD-1細胞では抑制しなかった。さらに、FITC結合アルブミンは、ELD-1細胞ではRab11陽性リサイクル小胞に取り込まれたが、FcRnノックダウンELD-1細胞では取り込まれなかった。免疫グロブリン処理したELD-1細胞では、取り込みは長く続いた。したがって、ELD-1細胞ではFcRnを介してアルブミンをリサイクルし、アルブミンは代謝されなかった。この結果により、LCHの免疫グロブリン静注療法の分子メカニズムの理解が深まった。

6)「ベトナムの小児LCHにおける病理学的特徴とBRAFV600E変異」

A study of pathological characteristics and BRAF V600E status in Langerhans cell histiocytosis of Vietnamese children.

Phan TDA, et al. J Pathol Transl Med. 2021 Mar;55(2):112-117.

【背景】LCHは、成人よりも小児に好発し、多くの臓器に病変をきたす。BRAFV600E変異陽性の小児LCHは再発率が高く、高リスクが多い。【方法】94例の小児LCH患者のパラフィンブロックを収集し、BRAF V600E変異の有無を検討した。BRAFV600E変異と臨床所見や検査所見との関連を分析した。【結果】BRAF遺伝子エクソン15のV600E変異が45例(47.9%)で検出された。多臓器型LCHでは、単一臓器型と比較し、BRAFV600E変異の頻度が有意に多かった(p=0.001)。年齢、性別、病変部位、リスク臓器浸潤の有無、CD1a発現などの他の臨床的特徴については、統計的に有意差はなかった。【結論】ベトナムの小児LCHでは、BRAFV600E変異の割合は比較的高く、多臓器型で多かった。

7)「眼窩のLCH:臨床および画像所見」

Langerhans Cell Histiocytosis of the Orbit: Spectrum of Clinical and Imaging Findings.

Lakatos K, et al. J Pediatr. 2021 Mar;230:174-181.e1.

【目的】小児LCHの眼窩病変の臨床および画像所見を評価する。【方法】国際臨床試験LCH I/II/IIIのいずれかに登録された、または1994年~2015年にセカンドオピニオンを受けたLCH患者のMRI画像の中央診断を行い、臨床データを後方視的に解析した。【結果】31例(34の眼窩病変)のデータを分析した。眼窩のみに病変があった例が15例、多発性骨病変があったのが5例、多臓器型が11例であった。眼窩病変が、初発症状の一部であったのが23例、再発時に出現したのが8例であった。眼窩病変は28例が片側性で、3例が両側性であった(計34病変)。眼球突出は9例に見られた。前頭骨と頬骨病変が最も高頻度であった。すべての眼窩病変は筋円錐外であった。合併する眼窩外画像所見として、19例に硬膜尾部徴候、8例に中枢神経変性病変、3例に視床下部-下垂体腫瘤がみられた。16例(52%)に少なくとも1回の再発を認めた。非可逆的合併症として、1例に顕著な眼球突出、8例に中枢性尿崩症、2例に成長ホルモン欠乏症、8例に放射線学的中枢神経変性病変、3例に神経学的中枢神経変性病変を認めた。【結論】主に片側性の眼窩LCHは、限局性病変または多発病変の一部としてみられる。LCHの眼窩病変は、すべて筋円錐外であり、通常、眼窩上壁と側壁にみられる。孤発性の眼窩LCHの最適な治療法は定まっておらず、前方視的研究が必要である。

8)「成人の肺LCHは、孤発型と肺外病変合併型の2病型に分類される可能性がある」

Adult pulmonary Langerhans cell histiocytosis might consist of two distinct groups: isolated form and extrapulmonary recidivism type.

Wang J, et al. Ann Transl Med. 2021 Feb;9(4):357.

【背景】成人の肺LCHは、通常は喫煙者に発生するまれなLCHの病型である。肺LCHの臨床経過は予測不能である。病変は自然に解消することもあるが、多臓器不全や死に至る可能性もある。この特発性疾患をよりよく理解するために、アジアの肺LCH患者のコホートを後方視的に分析した。【方法】中国南西部における肺LCHの詳細な臨床病理学的特徴と分子所見(サイクリン依存性キナーゼ阻害2A [P16]、PD-1、PD-L1の発現を含む)を報告した。BRAFV600E変異についても解析した。【結果】追跡データを基に、孤発肺LCHと肺外病変合併肺LCHの2群に細分した。孤発型は、主に若い男性(<40歳)で、喫煙歴、呼吸器症状(咳および呼吸困難)、CT所見で嚢胞性病変が多く、組織所見は細胞成分を多く含む肉芽腫を呈し、P16は高発現(66.7%)、PD-1も高発現(100%)、PD-L1は低発現(33.3%)で、BRAFV600E変異は検出されなかった。対照的に、肺外病変合併型は、有意に高齢(> 40歳)で、再発性の自然気胸を伴い、CT所見で結節性病変が多く、組織所見は間質線維化が多く、P16は100%、PD-1は66.7%、PD-L1は33.3%で発現していた。そして重要なことに、この群ではBRAFV600E変異を33.3%で検出した。【結論】成人の肺LCHは、孤発型と肺外病変合併型の2病型で構成されている可能性があることがわかった。P16の過剰発現は、肺LCHの診断マーカーとなる可能性がある。このコホートの成人肺LCHにおいてBRAF遺伝子変異の頻度が非常に低いことから、アジアの患者では他のLCHの病因が存在する可能性が示唆される。

9)「成人LCH患者の心理的特徴」

Psychological features of adult patients with langerhans cell histiocytosis.

Bugnet E, et al. PLoS One. 2021 Feb 12;16(2):e0246604.

【背景】成人LCH患者における精神症状と薬物乱用の頻度はこれまで調査されていない。検証済みの尺度を使用して、成人LCH患者のうつ症状と不安症状を評価することを目的とした。【方法】この横断的研究では、2012年1月~2013年1月に国立医療センターで診療した全ての成人LCH患者に、病院不安抑うつ尺度(HADS)、バラット衝動性尺度バージョン10(BIS-10)、大麻使用障害識別テスト(CUDIT)を行った。これらの質問票の自己申告スコアを使用して、LCH患者における臨床的に重要な精神症状および薬物乱用の頻度を算出した。心理的特徴に関する患者のプロファイルは、HADSおよびBIS-10質問票の点数による主成分分析と、階層的クラスタリングによって評価した。Fisherの直接確率検定とWilcoxon検定を使用して、疾患に関連するパラメーターと不安および衝動性の強さとの関連を調べた。【結果】主に肺LCHを含む71例の成人LCH患者を評価した。臨床的に重大な不安とうつ状態を、それぞれ22例(31%)および4例(6%)に認めた。衝動性を10例(14%)に認めた。12例(17%)が定期的に大麻を使用しており、このうち6例(50%)は大麻使用障害と判断されるスコアを示した。主成分分析では、3つの派生クラスターが特定され、これらの患者クラスターでは評価時の禁煙の成功率が異なっていた(p = 0.03)。単変量分析では、孤発性肺LCHと向精神薬の使用が、臨床的に重大な不安症状と関連していた。【結論】強い不安と衝動性は、成人LCH患者によく見られる。LCH患者の診療においてこれらの症状に関してさらに評価が必要である。

10)「肺LCHとα1-アンチトリプシン欠乏症との関連」

Clarifying the relationship between pulmonary langerhans cell histiocytosis and Alpha 1 antitrypsin deficiency.

McCarthy C, et al. Orphanet J Rare Dis. 2021 Feb 9;16(1):72.

肺LCHは主に喫煙者に発生するまれな喫煙関連の進行性びまん性嚢胞性肺疾患である。肺LCH患者の大規模な患者集団において、α1-アンチトリプシンの遺伝子変異や欠損表現型が多いか、血清α1-アンチトリプシン値が疾患の重症度のマーカーと相関するかを検討することを目的とした。対象とした50例の肺LCH患者のうち、画像上、24例がびまん性嚢胞性肺パターンを、26例が典型的な結節性嚢胞性パターンを示していた。α1-アンチトリプシンの平均値は、びまん性嚢胞性肺パターン群で1.39 g/L±0.37、結節性嚢胞性パターン群で1.41 g/L±0.21と、両群共に正常範囲内であった。遺伝子変異型PiZとPiSは、50例の全対象例でそれぞれ1%および2%であり、肺LCHにおけるα1-アンチトリプシン欠損の頻度は高くなかった。α1-アンチトリプシン値は、肺機能検査パラメーターや肺CTの嚢胞性病変の程度とは相関しなかった。