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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第8回 最新学術情報(2007.8)

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「単一臓器型と多臓器型LCHにおけるLOH解析」

Analysis of loss of heterozygosity in single-system and multisystem Langerhans' cell histiocytosis.

Chikwava KR et al. Pediatr Dev Pathol. 2007 Jan-Feb;10(1):18-24.

LCHの進展に遺伝子変異が関わっているかは明らかではない。本研究では、様々な臨床病期、予後に関わる様々な程度の臓器浸潤のLCHにおいて、がん抑制遺伝子を含む部分的アレル欠失を比較し解析した。6つの癌抑制遺伝子を標的とし、蛍光標識したプライマーを用いPCRでDNAを増幅した。PCR産物を、capillary electrophoresis genetic analyzerを用いて解析した。loss of heterozygosity (LOH)を確認するために、ピークの高さの比を、浸潤組織と正常組織で比較した。結果の解析にはFisher's exact testを用いた。14例の単一臓器型LCH(SS-LCH)と10例の多臓器型LCH(MS-LCH)を解析した。13例は高リスクあるいは特別臓器に浸潤があり、10例は低リスク臓器に浸潤があった。部分的アレル欠失の平均値は、MS-LCHではSS-LCHに比べ有意に高かった(62.7% vs. 40.3%)。部分的アレル欠失の平均値は、高リスクあるいは特別臓器への浸潤群は低リスク臓器への浸潤群に比べ有意に高かった(53.2% vs. 39.6%)。5番染色体長腕上のマーカーの部分的アレル欠失は、MS-LCHや高リスクあるいは特別臓器への浸潤群では、SS-LCHや低リスク臓器への浸潤群に比べ有意に高かった(76.3% vs. 46.2%, 72.7% vs. 37.5%)。これらのデータは進行期や高リスク型のLCHでは癌抑制遺伝子に変異の頻度が高いことを示唆している。疾患の進行や予後不良を予測するこの分析系の有用性を確立するために、5q23部位のLOHを用いた更なる研究が必要であろう。

2) 「胃の好酸球性肉芽腫における肥満細胞の増加は、好酸球浸潤と毛細血管増殖に関連している可能性がある」

Increase of mast cells may be associated with infiltration of eosinophils and proliferation of microvessels in gastric eosinophilic granuloma.

Li X et al. J Gastroenterol Hepatol. 2007 Jan;22(1):37-42.

【背景】胃好酸球性肉芽腫はまれな疾患である。近年この疾患は中国において増加している。本研究では、胃好酸球性肉芽腫の病変形成における肥満細胞の機能と役割を解析した。【方法】23例の胃好酸球性肉芽腫と15例の胃潰瘍のパラフィン切片において、抗ヒト肥満細胞トリプターゼで染色し肥満細胞と脱顆粒した肥満細胞の数を算定した。抗ヒトCD34抗体を用いた免疫染色によって微小血管密度を検出した。肥満細胞の脱顆粒は電顕も用いて観察した。【結果】肥満細胞と脱顆粒した肥満細胞の数は、正常胃粘膜に比べて胃好酸球性肉芽腫と胃潰瘍で増加していた。脱顆粒した肥満細胞の割合は、胃潰瘍に比べ胃好酸球性肉芽腫において増加し、胃潰瘍では正常粘膜と同程度であった。微小血管密度は、正常胃粘膜に比べ胃潰瘍や胃好酸球性肉芽腫で高く、胃好酸球性肉芽腫のなかでは、肥満細胞が多い群に比べ肥満細胞が少ない群で高かった。好酸球と肥満細胞の正の相関がGEGにおいて認められたが胃潰瘍では認められなかった。【結論】胃好酸球性肉芽腫において、好酸球の浸潤と微小血管密度は肥満細胞の増加と関連があるであろう。このことは、好酸球に加え、肥満細胞は胃好酸球性肉芽腫の病変形成に重要な細胞であることを示唆している。

3)「LCHにおけるCD1aとlangerin、Birbeck顆粒の同時発現:電子顕微鏡と免疫組織化学による解析」

Coexpression of CD1a, langerin and Birbeck's granules in Langerhans cell histiocytoses (LCH) in children: ultrastructural and immunocytochemical studies.

Dziegiel P et al. Folia Histochem Cytobiol. 2007;45(1):21-25.

LCHは病因が不明な稀な疾患である。ほとんどの例は15歳までの小児で、骨、皮膚、肝、リンパ節、骨髄、その他、様々な臓器に浸潤する。診断は、病変部位の生検でランゲルハンス細胞に特異的なマーカー(CD1aやランゲリン)の発現を確認することにより確定されてきた。診断は、最終的に、電顕によりバーベック顆粒を確認することにより確定できる。本研究の目的は、LCH病変組織(皮膚、骨、リンパ節)において、免疫組織化学による特異的マーカーの発現を確認し、バーベック顆粒の存在をそれと比較することである。検索した11例全てにおいて、CD1aとランゲリンの同時発現、CD1aとバーベック顆粒の同時存在が確認された。また、検索した全ての生検組織において、S-100蛋白の発現が確認された。この結果は、LCHの診断において、CD1aとランゲリン発現を免疫組織化学により検索することの有用性を実証している。

4)「単球由来樹状細胞がCD1a陰性または陽性に分化するかは、脂質の環境とPPARγにより影響を受ける」

Differentiation of CD1a- and CD1a+ monocyte-derived dendritic cells is biased by lipid environment and PPARgamma.

Gogolak P et al. Blood. 2007 Jan 15;109(2):643-652.

微小環境が樹状細胞のサブタイプ分化とCD1aの発現を調節するということを示すデータが蓄積されてきているが、これらの効果をもたらす外的因子によるメカニズムはよくわかっていない。ここで、我々は、CD1a陰性の単球由来樹状細胞(moDC)の発達は、peroxisome proliferator-activated receptor-gamma (PPARgamma)の発現に関連した脂質に依存することを示す。また、未熟なCD1a陰性・PPARgamma陽性moDCからCD1a陽性・PPARgamma陰性moDCへの継続的な分化は、血清リポ蛋白によって制限され、炎症促進性サイトカインによって終結することも示す。未熟なCD1a陰性moDCはCD1a陽性moDCに比べ内部取り込み能が高い。一方、両者の活性化型は同等の遊走能を有するが、サイトカインやケモカインのプロファイルは異なり、これがT細胞のを活性化する能力の違いとなる。CD1a陽性moDCsはIL-12p70とCCL1の多量な分泌能力が際立っている。リポ蛋白はmoDCの分化をCD1a陰性・PPARgamma陽性の方向に導きCD1a陽性・PPARgamma陰性細胞の発達を阻害することから、我々は、脂質の取り込みがPPARgammaを刺激する内因性の作用物質をもたらし、それが脂質の代謝をコーディネートする遺伝子の転写経路やCD1a分子を表出する脂質の発現、機能的に対立するサブタイプを誘導するのではないかと考える。CD1a陰性・PPARgamma陽性とCD1a陽性・PPARgamma陰性DCがリンパ節や肺LCHに存在することは、in vivoにおける、これらのDCサブタイプの機能的な関連性を確証している。

5) 「CD1a陽性細胞におけるテロメラーゼの発現の違いが、LCHの臨床像の違いを反映する」

Differences in telomerase expression by the CD1a(+) cells in Langerhans cell histiocytosis reflect the diverse clinical presentation of the disease.

da Costa C et al. J Pathol. 2007 Apr 23;212(2):188-197.

LCHは、ランゲルハンス細胞の制御不能なクローナルな増殖を特徴とする疾患で、その病因はいまだ明らかではない。LCHがクローナルであることは、LCHが無限の増殖能をもつ悪性疾患であるという説を支持する。無限に増殖するためには、テロメア長を維持することが必要である。70例のLCHにおいて、我々は、テロメアの維持能がLCH細胞で働いているかどうかを調べた。皮膚病変から得られた6例中全てのLCH細胞はテロメラーゼを発現していることが、ヒトtelomere reverse transcriptase (hTERT)の免疫組織染色によって示された。一方、骨病変から得られたLCH細胞の大半(26/34)はhTERTを発現していなかった。興味深いことに、孤発性の骨病変とは対照的に、多臓器型の病変部位からのLCH細胞では、浸潤部位に関係なく、全て(11/11)テロメラーゼを発現していた。異なる病変部位について行ったin situ telomeric repeat amplification protocol (TRAP)解析により、このテロメラーゼは機能していることが示された。さらに、hTERT陰性の単一臓器型LCHの骨病変から得たLCH細胞ではテロメア長が不均一であったのに対し、hTERT陽性の多臓器型LCHの皮膚病変から得たLCH細胞のテロメア長は均一で長かった。hTERT陰性の病変部位においては、テロメアを伸長する代替の仕組みは見いだせなかった。テロメラーゼの発現の違い、異なる病変部位や、孤発型と多臓器型でテロメア長が異なることは、この疾患の多様な臨床像や臨床経過を反映していると考えられる。この研究の結果は、この疾患の性質を理解する上で重要な意味を持つ。

6)「LCHと肺の炎症性疾患と感染症におけるランゲリンの免疫組織化学解析」

Immunohistochemical analysis of langerin in langerhans cell histiocytosis and pulmonary inflammatory and infectious diseases.

Sholl LM et al. Am J Surg Pathol. 2007 Jun;31(6):947-52.

肺LCHは成人の喫煙者に多く見られる原因不明の疾患である。LCHは組織学的に、遠位の気道周囲の間質での、好酸球やリンパ球、マクロファージの浸潤を伴ったLCH細胞の結節性の増殖を特徴とする。線維化や肺気腫様変化、細気管支炎のような肺LCHでみられる所見は、他の間質性肺疾患に類似する。CD1aとS100のマーカーは、他の疾患とLCHを鑑別するために使われてきた。肺疾患におけるランゲルハンス細胞特異的レクチン、ランゲリン、の発現についてはあまり知られていない。我々は、S100とCD1a、ランゲリンの発現様式を、Brigham and Women's病院の病理部門のファイルから検索したLCHと他の間質性、炎症性、感染性の疾患の症例において検討した。発現率は、最も数多く染色されている高倍率視野(400倍)あたりの染色細胞数を、4視野以上の平均値をとり、算定した。CD1aとS100陽性で形態的にLCHと診断された例では、ランゲリンの発現率は病変組織において高かった。LCHの全例で、病変組織において、高倍率視野(HPF)の100以上の細胞あたり、ランゲリンとCD1a陽性細胞を30以上含んでいた。他の間質性肺疾患のなかでは、正常肺組織でのランゲルハンス細胞の数(HPFあたり平均6細胞)に比較し、通常の間質性肺炎においてのみランゲルハンス細胞の増加(HPFあたり平均14細胞)が認められた。ランゲリンとCD1aは、LCHと間質性肺疾患や炎症性肺疾患を鑑別する、特異な診断マーカーである。