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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第6回 最新学術情報(2006.12)

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「おとり受容体osteoprotegerin(OPG)は小児LCH患者の血清で上昇している」

Elevated serum levels of the decoy receptor osteoprotegerin in children with langerhans cell histiocytosis.

Rosso DA et al. Pediatr Res. 2006 Feb;59(2):281-286.

LCHは、骨や皮膚・その他の組織の肉芽性病変に樹状ランゲルハンス細胞が集積する疾患である。その病因はいまだ明らかではない。我々は、骨代謝と免疫反応の重要な調節因子であるOPGの血清濃度を、18例の単一臓器(SS)型と多臓器(MS)型のLCH患児と20例の小児対照群で測定した。LCH患者の診断時のOPG値は、対照群に比べ有意に上昇しており、治療前のOPG値はSS型よりもMS型で高かった。さらに、OPG値は、リスク臓器(肝・脾、肺、造血器)浸潤がないLCH患者に比べて、リスク臓器浸潤を伴う患者において高値であり、OPG値と疾患重症度の関連があると考えられた。我々はまた、LCH発症時の血清中のOPG値と炎症促進性サイトカインであるTNFα値には正の相関があることを見つけた。これらのことは、OPGはLCH患者において上昇しており、OPGがこの謎の疾患の病因に関連している可能性を示している。

2)「特定のサイトカイン遺伝子の多型性が、単一臓器・多臓器型の小児LCHの発症リスクに関連する」

Specific polymorphisms of cytokine genes are associated with different risks to develop single-system or multi-system childhood Langerhans cell histiocytosis.

De Filippi P et al. Br J Haematol. 2006 Mar;132(6):784-787.

この研究は、造血障害を伴った難治性の小児LCHに対する、2-chlorodeoxyadenosine (2-CdA)とcytosine arabinoside (Ara-C)の併用療法の効果と副作用を評価することを目的とする。10例(診断時年齢の中央値0.5歳)がこの研究に登録された。治療は、Ara-C (1000 mg/m2/日)と2-CdA (9 mg/m2/日)を5日間、4週毎に、少なくとも2コース行い、その後経過観察(0.03-6.4年、中央値2.8年)した。2コース以上治療を受けた7例中、6例で病勢の改善を認め、7例全例が中央値5.5か月後には病勢のコントロールが可能となった。全例にWHOグレード4の血液学的障害が生じた。2例が2-CdA/Ara-Cの第1コース直後に敗血症のため死亡した。もう1例は、第1コース終了後に治療研究から脱落し、造血幹細胞移植を受けたが死亡した。症例数は少ないが、2-CdA/Ara-C併用療法は難治性の小児LCHに対し有効な治療法と考えられる。

3)「LCHとHHV-6、リアルタイムPCRによる解析」

Langerhans cell histiocytosis and human herpes virus 6 (HHV-6), an analysis by real-time polymerase chain reaction.

Glotzbecker MP et al. J Orthop Res. 2006 Mar;24(3):313-320.

LCHは骨に浸潤することが最も多いので、患者は整形外科に紹介されることが多い。LCHの病因として、環境因子や感染症、免疫学的や遺伝的要因が推定されているが、いまだ不明である。特にHHV-6が病原体である可能性を示すデータは限られている。13例のLCH患者と20例のLCH以外の患者から凍結生検組織を得た。生検組織の病理診断が正しいことを確かめた後、定性PCRとリアルタイムTaqMan定量PCRによって組織中のHHV-6を調べた。LCHの患者13例中4例、対照群20例中7例で、組織中にHHV-6DNAの存在が確かめられた。HHV-6DNA陽性例においてウイルス量を定量したが、両群においてHHV-6の量には統計学的有意差はなかった。これらのことは、LCH患者における組織中のHHV-6の陽性率と量は、LCH以外の例と同様であることを示しめしている。

4)「樹状/ランゲルハンス細胞とLCHにおける遺伝子発現解析」

Gene expression analysis of dendritic/Langerhans cells and Langerhans cell histiocytosis.

Rust R et al. J Pathol. 2006 Aug;209(4):474-483.

LCHは、ランゲルハンス細胞の表現形を示す細胞がクローン性に増殖する腫瘍性の疾患である。LCHの病因はいまだよくわかっていない。この研究では、ランゲルハンス細胞特異的な遺伝子の同定するために、CD34陽性の臍帯血中の前駆細胞から樹立したランゲルハンス細胞を連続的遺伝子発現解析(SAGE)によって解析し、LCHにおけるこれらの遺伝子の発現を調べた。ランゲルハンス細胞やLCHで高発現していることが知られているCD1aやLYZ、CD207等のほかに、ランゲルハンス細胞での発現が今まで報告されていなかったGNSやMMP12、CCL17、CCL22等が高発現していることが明らかとなった。さらに、定量PCRによるこれらの遺伝子の解析により、FSCN1とGSNは解析した12例すべてのLCHにおいて、CD207とMMP12、CCL22、CD1aはほとんどの例において、CCL17は12例中3例において高発現であることが明らかとなった。免疫組織化学によって、ほとんどの例で蛋白発現が確認された。MMP12の発現量は、最も予後が不良である多臓器型のLCHにおいて最も豊富であった。このことは、MMP12がLCHの病期進展に関与していることを示唆している。この結果は、LCHの病因に新しい視点を開き、このクローン増殖性疾患の今後の研究に新しい出発点となる。

5)JLSG-96プロトコールの治療成績
「小児の多病変LCHの治療成績の改善:JLSG-96プロトコール研究の成績」

Improved outcome in the treatment of pediatric multifocal Langerhans cell histiocytosis: Results in the JLSG-96 protocol study

Morimoto A et al. Cancer. 2006; 107(3): 613-619.

【背景】多発病変の小児LCHにおいては、治療反応性不良は高死亡率に、高頻度の再燃は後遺症に結びつき、その治療成績は満足できるものではない。このような問題を克服するため、日本において1996~2001年にJLSG-96プロトコールが前方視的に行われた。【対象と方法】新規に診断された多病変の小児LCH患者を、単一臓器多病変(SS-m)型と多臓器(MS)型の2つのグループに分けた。すべての患者を、最初はAra-C/VCR/PSLによる6週間の寛解導入療法と6か月の維持療法からなるプロトコールAで治療した。プロトコールAの寛解導入療法に反応不良の例は、ADR/CPM/VCR/PSLからなる強力なサルベージ療法であるプロトコールBに移行した。【結果】SS-m型32例、MS型59例、計91例が治療された。観察時間の中央値5年で、SS-m型の96.9%、MS型の78.0%でLCH活動性病変が消失していた。SS-m型の3.1%、MS型の8.9%に尿崩症を発症した。5年での粗生存率は、SS-m型で100%、MS型では94.4 ± 3.2%であった。【結論】JLSG-96プロトコールでは、小児の多病変LCHの死亡率は著しく低い。

6)JLSG-02プロトコールの付随研究の結果
「LCHにおいては血清中の可溶性CD154、IL-2受容体、RANKL、OPG値は高値である」

High serum values of soluble CD154, IL-2 receptor, RANKL and osteoprotegerin in Langerhans cell histiocytosis.

Ishii R et al. Pediatr Blood Cancer. 2006 Aug;47(2):194-199.

【背景】LCHにおける有用な生化学マーカーを見つけるために、血清中の可溶性CD154(sCD154)、IL-2受容体(sIL-2R)、RANKL(sRANKL)、osteopotegerin(OPG)値を測定した。【方法】2002-2004年にJLSG-02プロトコールで治療された46例の新規LCH症例(単一臓器多発型(SM型):20例、多臓器多発型(MM型):26例)について検討した。年齢の中央値は3.8歳(0-18歳)であった。sCD154とsIL2-R、sRANKL、OPGはELISA法を用い、診断時に46例で、6週間の寛解導入後に14例で測定した。【結果】血清中のsCD154とsIL-2R、sRANKL、OPG値とsRANKL/OPG比は、対照に比べ有意に高値であった(それぞれ、1.83 +/- 1.38 対 0.22 +/- 0.16 ng/ml, P < 0.001;1,600 +/- 1,060 対 420 +/- 160 pg/ml, P < 0.001;1.72 +/- 1.20 対 1.04 +/- 1.09 pmol/L, P = 0.019;6.34 +/- 2.94 対 3.71 +/- 2.03 pmol/L, P < 0.001;0.40 +/- 0.45 対 0.16 +/- 0.17, P = 0.023)。血清中のsIL-2R値は、SM型に比べMM型では有意に高値であった(2,050 +/- 1,060 対 870 +/- 340 pg/ml, P < 0.001)。血清中のOPG値は、SM型に比べMM型では有意に高値(7.58 +/- 2.72 vs. 5.13 +/- 2.69 pmol/L, P = 0.008)で、骨病変の数と負の相関があった(r = -0.56, P = 0.007)。それに対して、sRANKL/OPG比は、MM型に比べSM型で有意に高かく(0.57 +/- 0.54 対 0.19 +/- 0.14, P = 0.002)、骨病変の数と正の相関があった(r = 0.34, P = 0.040)。寛解導入療法に反応があった例では、血清中のsIL-2RとsRANKL、OPG値とsRANKL/OPG比は、寛解導入後に有意に低下した(それぞれ、1,170 +/- 600 対 730 +/- 290 pg/ml, P = 0.029;2.19 +/- 1.06 対 1.24 +/- 0.66 pmol/L, P < 0.001;6.13 +/- 2.40 対 4.72 +/- 2.03 pmol/L, P = 0.040;0.57 +/- 0.52 対 0.41 +/- 0.37, P = 0.02)。寛解導入療法に反応しなかった3例では、血清中のsCD154 値は、寛解導入療法後、有意に上昇した(1.3 +/- 1.1 対 2.7 +/- 1.2, P = 0.004)。【結論】LCHにおいて、血清中のsIL-2RとsCD154値は炎症の、血清中sRANKL/OPG比は骨溶解の活動性の指標として有用である。