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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第9回 最新学術情報(2007.12)

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「肺LCHにおける高解像度CT像と呼吸機能の関連」

Correlation between high-resolution computed tomography findings and lung function in pulmonary Langerhans cell histiocytosis.

Canuet M et al. Respiration. 2007;74(6):640-646.

【背景】肺LCHは、重大な呼吸不全をきたすことがある、まれな興味深い肺疾患である。高解像度CT所見と呼吸機能の関連はいまだ明らかではない。【目的】肺LCHにおける高解像度CT所見と呼吸機能の関連を明らかにする。【方法】肺LCHにおける高解像度CTの異常所見は主に、結節性陰影と嚢胞状異常影であるので、結節性陰影と嚢胞状異常影の程度を半定量的にスコア化した。このようにして、肺LCHの患者における高解像度CTの異常所見と呼吸機能・ガス交換指標の関連を明らかにした。【結果】26人の患者において、結節性陰影の程度と呼吸機能・ガス交換指標との間に有意な関連はみられなかった。嚢胞状異常影の程度と1秒率には極めて強い有意な関連性が認められ(r= -0.62; p=0.01)、また、PaO2やCO拡散能にも有意な関連を認めた(r= -0.69; p=0.001、r= -0.60; p<0.01)。さらに、7例の嚢胞状異常影が主体を占める患者においては、12例の結節性陰影が主体を占める患者や7例の混合型の患者に比べ、労作時呼吸困難は重度で(p=0.004)、1秒率やPaO2は低値であった(p=0.02、p=0.02)。【結論】肺LCHにおいては、高解像度CTでの、結節性陰影ではなく、嚢胞状異常影の程度が、呼吸機能異常やガス交換障害に有意に影響する。

2) 「LCHに対するサリドマイドの第2層試験」

A phase II trial using thalidomide for Langerhans cell histiocytosis.

McClain KL et al. Pediatr Blood Cancer. 2007 Jan;48(1):44-49.

【背景】LCHの新規治療薬剤の研究はほとんど行われていない。TNF-αはLCHの病変部位において発現が亢進しているので、TNF-αは主要な治療標的である。サリドマイドは、プロモーターに影響することや他のサイトカインの効果によって、TNF-αの産生を抑制する。【方法】初期治療と少なくとも一つの二次治療が奏効しなかった、16例のLCHがサリドマイドの第二層臨床試験に登録され、男性9例/女性7例、年齢は19か月から45歳であった。6例が脾臓または肝臓・肺・骨髄に浸潤のある高リスク患者であった。他は低リスク患者で、骨・皮膚病変が6例、多発骨病変が1例、皮膚・骨・下垂体病変が1例、皮膚・骨・脳病変が1例、皮膚単独病変が1例であった。15例は3週から1年以上、治療を継続した。【結果】サリドマイド治療に対し、低リスク患者のうち4例が完全寛解、3例が部分寛解、2例が反応なしであった。高リスク患者では、サリドマイド治療に反応した例はなく、全例が呼吸不全・肝不全または骨髄機能不全で死亡した。サリドマイドは呼吸不全の悪化に関与した可能性がある。そのほかに治療中止を必要とした毒性として、好中球減少・末梢神経障害・疲労があった。【結論】サリドマイドは、低リスクのLCH患者に対してある程度の効果があるが、高リスク患者に対しては明らかな効果はない。用量制限毒性によって低リスク患者の有効性が低下した可能性がある。改良した抗TNF療法による、さらなる治験が必要と思われる。

3) 「LCH患者における中枢神経関連後遺症」

Central nervous system-related permanent consequences in patients with Langerhans cell histiocytosis.

Mittheisz E et al. Pediatr Blood Cancer. 2007 Jan;48(1):50-56.

【背景】LCHにおける後遺症は、生存者の生活の質を重大に損なう可能性のある、疾患に関連した非可逆的な晩期障害である。中枢神経に影響する後遺症の頻度や様式は明らかではない。【方法】単一施設において、25例のLCH患者を、神経精神テストや電気生理学的評価を含んだ統一された綿密な経過観察プログラムにより、中央値10年3か月間、経過観察した。【結果】25例中9例で後遺症が見られた。中枢神経後遺症が最も頻度が高く、7例に尿崩症を、5例に下垂体前葉不全を、5例に変性性中枢神経障害を認めた。神経学的評価によって神経学的症状を認めた例はなかったが、精神学的テストで聴覚の短期記憶障害を14例に認めた。脳幹誘発電位の異常を9例中4例に認め、これら4例は全てMRIで変性性中枢神経病変を認めた。【結論】この単一施設の研究によって、予期せぬほど高率に精神神経学的後遺症が見つかった。LCHの生存者においては、このような後遺症に注目した長期経過観察が、後遺症を早期発見し経過を追い、特別な支援を提供するために、重要である。

4)「1954年から1998年のイギリス北西部における小児LCHの頻度と生存率」

Incidence and survival of childhood Langerhans cell histiocytosis in Northwest England from 1954 to 1998.

Alston RD et al. Pediatr Blood Cancer. 2007 May;48(5):555-560.

【背景】LCHは、病的ランゲルハンス細胞が増殖するまれな疾患で、その病因や病原は未だ明らかではない。【方法】1954年から1998年にマンチェスタ小児腫瘍登録(MCTR)全数調査に登録された101例の小児LCHの情報を抽出した。その情報には、年齢・性・診断日・診断時とその後の浸潤臓器を含んでいる。【結果】LCHの発症頻度は小児100万あたり2.6人/年であった。その数は、1歳未満では9.0人であるのに対し、10-14歳では0.7人であった(p<0.0001)。出生月や初発症状出現月に偏りはなかった。骨病変が最も多く67%にみられ、次いで皮膚病変が37%、軟部組織病変が22%であった。粗生存率は、1954-68年が57%、1985-98年が74%で、改善がみられた。死因の9割はLCHの進行であり、残りは強力な治療の合併症であった。診断時のLCHの病変部位と程度は、生存率に大きく影響していた。診断時に肝病変のある患者の5年生存率が25%であるのに対し、骨病変のみの患者は93%であった。【結論】発症頻度は診断時年齢によって有意に異なり、年代によって差はなかった。生存率は、年代によりかなり改善してきているが、診断時年齢と浸潤臓器により大きく差がある。

5)「LCH変性性中枢神経病変のMRI像の長期変化」

Long-term MR imaging course of neurodegenerative Langerhans cell histiocytosis.

Prosch H et al. Am J Neuroradiol. 2007 Jun-Jul;28(6):1022-1028.

【背景と手順】変性性中枢神経病変に合致する、小脳・橋・基底核のMRIでの信号強度の異常を呈するLCH患者は10%に上る。LCH変性性中枢神経病変の画像所見は詳細に報告されているが、その経時的変化については未だ明らかではない。この研究の目的は、LCH変性性中枢神経病変におけるMRIのT1とT2強調画像の信号強度異常を、長期に経時的に明らかにすることである。【症例と方法】今回、少なくとも5年以上経過観察されているLCH変性性中枢神経病変をもつ9例の患者について、後方視的に研究した。3年±11か月の間に、1例当たり少なくとも3回以上撮影されたMRI像を再検討した。小脳・橋・基底核における、MRIのT1とT2強調画像の信号強度異常を、その信号強度の質と広がりによって点数化した。さらに、小脳萎縮の程度を点数化した。【結果】信号強度異常が改善した例はなかった。それどころか、すべての患者において小脳または基底核の信号強度異常は進行したが、臨床症状の悪化とは関連しなかった。明らかに重篤な神経症状がみられたのは、萎縮を認めた2例のみであった。【結論】LCH変性性中枢神経病変は徐々に進行していくと思われる。小脳や基底核の信号強度異常の悪化は、臨床症状の増悪とは関連しない。MRI検査は、放射線学的LCH変性性中枢神経病変を発見し監視するための感度のよい検査法である。

6) 「LCHにおける再燃と後遺症リスク」

Reactivation and risk of sequelae in Langerhans cell histiocytosis.

Pollono D et al. Pediatr Blood Cancer. 2007 Jun 15;48(7):696-699.

【目的】LCH患者における再燃と後遺症に与える影響を評価する。【症例と方法】1987年から2002年にLCHと診断され、初期治療によく反応した300例の患者を後方視的に解析した。【結果】診断時年齢の中央値は5.3歳であった。平均4.8年間の観察期間において、再燃を29.7% (89/300)の患者に認め、そのうち34.8% (31/89)は2回以上再燃を認めた。単一臓器単一病変型(グループA; 161例)、単一臓器多病変型(グループB; 53例)、多臓器病変(リスク臓器浸潤なし)型(グループC; 58例)、多臓器病変(リスク臓器浸潤あり)型(グループD; 28例)の再燃率は、それぞれ17.4%、36.8%、46.5%、53.5%であった。再燃率は、グループAとB(P < 0.0004)、グループAとC (P < 0.0001)、グループAとD(P < 0.0001)の間で有意に差があった。最も頻度の高い再燃部位は、骨・中耳・皮膚で、リスク臓器への再燃はまれ(9.5%)であった。初期から初回再燃までの期間の中央値は、グループAで1年、グループBで1.3年、グループCとDで9か月であった。再燃のほとんど(88%)は初めの2年間に起こっていた。300例中242例で後遺症の有無を検討し、再燃のある患者では71% (49/69)、再燃のない患者では25.4% (44/173)に後遺症を認めた(p<0.0001)。もっとも頻度の高い後遺症部位は骨で、次いで中耳、視床下部(尿崩症)であった。【結論】再発の頻度は、LCHの診断時の病期と関連している。後遺症の頻度は、再燃の有無と関連している。

7) 「小児LCHにおけるPET-CT」

PET-CT in pediatric Langerhans cell histiocytosis.

Kaste SC et al. Pediatr Radiol. 2007 Jul;37(7):615-622.

5例の小児LCH患者において、臨床病期の決定・様々な治療段階や経過観察中における病巣の活動性の評価のためにPET-CT検査を行い、PET-CTの有用性を評価した。PET-CTは、CTの解剖学的詳細さと18F-FDG像の生理的活動性を組み合わせたものである。PET-CT検査は、LCHの活動性や治療反応性を評価するのに臨床的に有用で、テクネシウム99mによる骨シンチからは得られない情報を提供してくれる。

8)「肺機能検査と肺LCH」

Pulmonary function testing and pulmonary Langerhans cell histiocytosis.

Bernstrand C et al. Pediatr Blood Cancer. 2007 Sep;49(3):323-328.

肺LCHにおける高解像度CT検査と肺機能検査の関連を、単一施設での長期経過観察(中央値16年)により検討した。肺胞容量で補正した肺拡散能(K(Co))と全肺気量(TLC)は、高解像度CT検査で重度の異常を呈した患者では、有意に低下していた(p=0.016, p=0.030)。高解像度CT検査で病期が進行した患者では、1秒量(EFV1.0)と肺活量(VC)が増加していた(p=0.037, p=0.036)。肺LCHの状態を把握していくことは重要である。肺拡散能を含む肺機能検査は、その時点での肺機能評価に役立ち、高解像度CT検査を補う、肺LCHの状態把握をするための有用な手段であろう。

9)「LCHにおける骨髄の評価」

Bone marrow assessment in Langerhans cell histiocytosis.

Minkov M et al. Pediatr Blood Cancer. 2007 Oct 15;49(5):694-698.

【背景】LCHの患者における骨髄の変化や、骨髄の変化と血球減少の関連は、未だ十分に検討されていない。LCH患者における骨髄の変化を明らかにし、骨髄の変化とLCHの重症度の関連を確かめることが本研究の目的である。【方法】57例のLCH患者の骨髄検体を、従来の細胞診断法、免疫細胞化学法、フローサイトメトリー法により検討した。【結果】従来の細胞診断法では、細胞密度・単球や前駆細胞の数・組織球や血球貪食像の有無に、LCH患者と対照群で有意な差はなかった。フローサイトメトリー法では、有核細胞・CD34陽性細胞・CD14陽性細胞数に違いはなかった。免疫組織化学法では、CD1a陽性細胞を、LCH患者では41例中14例で認めたのに対し、対照群では全く認めなかった。フローサイトメトリー法では、CD1a陽性細胞を、LCH患者では54例中12例で認めたが、対照群でも35例中5例に認めた。LCH患者骨髄中のCD1a陽性細胞数は、通常は非常に少なかった(免疫組織化学法では1スライドあたり10‐20個未満、フローサイトメトリー法では白血球の0.5%未満)。重症患者では、CD1a陽性細胞を高頻度に多数認めた。【結論】従来の吸引細胞診断法と、細胞組織化学法によるCD1a染色の組み合わせは、LCHの骨髄を評価する際、最も信頼できる方法と思われる。

10) 「2-クロロデオキシアデノシン(2-CDA)で治療を受けた中枢神経に腫瘤性病変をもつLCH患者の転帰」

Analysis of outcome for patients with mass lesions of the central nervous system due to Langerhans cell histiocytosis treated with 2-chlorodeoxyadenosine.

Dhall G et al. Pediatr Blood Cancer. 2008 Jan;50(1):72-79.

【目的】LCHによる中枢神経の腫瘤性病変に対する2-CDAの効果と耐容性を評価する。【症例と方法】中枢神経腫瘤性LCH病変に対し2-CDAで治療を受けた、小児8例と成人4例の診療録を調査した。中枢神経病変の病型は、視床下部-下垂体系浸潤、ガドリニウムで造影される脳実質・硬膜・脈絡叢の腫瘤性病変、萎縮性病変であった。2-CDAは、5-13mg/m2/日で3-5日連続を、2-8週間隔で、3-12か月間投与された。【結果】2-CDA治療により、8例において、すべての造影される腫瘤陰影が消失し放射線学的完全寛解を得たが、4例では不変または部分寛解であった。1例は治療に関連しない原因で死亡し剖検でLCH病変は見つからなかった。治療終了後2-10年の観察期間において、11例が寛解維持または病変の進行ない状態で生存している。骨髄抑制の遷延は、最も高頻度な毒性で、4例に認めた。汎下垂体機能不全や尿崩症、認知神経学的機能不全のようなLCHの中枢神経の恒久的な後遺症は、2-CDA治療によっても非可逆的であった。【結論】2-CDAは、変性性中枢神経病変以外の中枢神経病変LCHに対し有効な薬剤であり、造影される腫瘤性の中枢神経病変をもつLCH患者に対し前向き多施設臨床試験によりさらに評価されるべきである。