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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第43回 最新学術情報

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「壊死性黄色肉芽腫の多施設横断研究および系統的文献検索と診断基準の提案」

A Multicenter Cross-Sectional Study and Systematic Review of Necrobiotic Xanthogranuloma With Proposed Diagnostic Criteria.

Nelson CA, et al. JAMA Dermatol. 2020 Jan 15;156(3):270-9.

【重要性】壊死性黄色肉芽腫(NXG)は、形質細胞異常またはリンパ増殖性疾患に起因する、古典的に異常蛋白血症に関連する非LCH組織球症である。重大な疾患であるにもかかわらず、NXGの論文は症例報告や小規模な研究しかなく、診断基準はない。【目的】NXGの特徴を明らかにし、診断基準を提案する。【研究デザインと対象患者】この多施設共同横断研究は三次学術病院で実施し、その後、系統的文献検索と意見集約をおこなった。多施設コホートには、Brigham and Women's and Massachusetts総合病院(2000-2018)、Iowa大学病院/クリニック(2000-2018)、Pennsylvania大学ヘルスシステム(2008-2018)で診断されたNXG患者が含まれていた。2018年にCochrane、Ovid EMBASE、PubMed、およびWeb of Scienceデータベースの文献を検索しNXG症例を抽出した。診断基準を作成するために、8人の皮膚科専門医によって意見集約が行われた。【主な解析項目】人口統計学的要因、併存症、臨床的特徴、治療反応。【結果】235例のNXG患者(多施設コホート34例、系統的文献検索201例)の発症時年齢は平均61.6歳((SD:14.2歳)で、147例(62.6%)は女性であった。193例(82.1%)に異常蛋白血症を認め、IgG-κ(117例、50.0%)が最も高頻度であった。59例(25.1%)に悪性疾患を認め、多発性骨髄腫(33例、14.0%)が最も高頻度であった。全体で197例(83.8%)に異常蛋白血症または悪性疾患を認めた。多施設コホートでは、NXG発症後中央値2.4年(0.1~5.7年)で、異常蛋白血症から多発性骨髄腫への進展を認めた。皮膚病変は丘疹、斑または結節を呈し、通常は黄色または橙色(113/187、60.4%)で、眼窩周囲(130/219、59.3%)に多かった。皮膚以外では眼病変(34/235、14.5%)が多かった。多施設コホートでは、静脈内免疫グロブリン療法が最も奏効率が高く(9/9例、100%)、次いで抗マラリア薬(4/5例、80%)、病変内トリアムシノロン(6/8例、75%)、手術(3/4、75%)、化学療法(8/12例、67%)、レナリドマイドまたはサリドマイド(5/8例、63%)であった。意見集約により、NXGの1)臨床的および2)組織病理学的特徴の2つの主要診断項目と、1)異常蛋白血症、形質細胞異常症または他のリンパ増殖性疾患と2)皮膚病変の眼窩周囲分布の2つの副次診断項目が作成された。異物や感染症、その他の明らかな原因がなく、主要診断項目の両方と少なくとも1つの副次診断項目を満たす場合、NXGと確定診断する案が提示された。【結論と関連】NXGは、異常蛋白血症と悪性疾患に関連する多臓器疾患である。提案された診断基準は臨床研究を促進する可能性があり、検証の必要がある。

2)「末梢血中CD1c陽性の骨髄性樹状細胞は、LCH病変部のCD1a陽性/CD207陽性細胞の潜在的な前駆細胞である」

Circulating CD1c+ myeloid dendritic cells are potential precursors to LCH lesion CD1a+CD207+ cells.

Lim KPH, et al. Blood Adv. 2020 Jan 14;4(1):87-99.

LCHは、CD1a陽性/CD207陽性の異常な樹状細胞を伴う炎症性病変を特徴とする骨髄増殖性疾患である。BRAF V600Eやその他のMAPK経路の活性化遺伝子変異が、骨髄と末梢血の分化した骨髄系細胞で見出されるが、LCH病変部位のCD1a陽性/CD207陽性樹状細胞の起源と病変形成の機構は完全には解明されていない。LCHのCD1a陽性/CD207陽性樹状細胞の前駆細胞の候補を同定するため、まず、LCH病変部位のCD1a陽性/CD207陽性樹状細胞の遺伝子発現プロファイルを、ヒト骨髄系細胞の亜集団の遺伝子発現プロファイルと比較した。興味深いことに、CD1c陽性の骨髄性樹状細胞の遺伝子発現プロファイルは、LCH病変部位のCD1a陽性CD207陽性樹状細胞の遺伝子発現プロファイルに最も類似していた。さらに、BRAF V600E変異は、LCH病変部位のCD1a陽性/CD207陰性樹状細胞およびCD1a陽性/CD207陽性樹状細胞だけでなく、CD1c陽性骨髄性樹状細胞にも同定された。CD1a陽性/CD207陰性樹状細胞の遺伝子発現プロファイルは、CD1a陽性/CD207陽性樹状細胞(CD1a陽性/CD207弱陽性およびCD1a陽性/CD207強陽性の両者)の遺伝子発現プロファイルとほとんど区別できなかった。LCH病変部位の樹状細胞に特有なバイオマーカー候補を同定するために、LCH病変部位のCD1a陽性/CD207陽性樹状細胞と健常者の末梢血CD1c陽性骨髄系樹状細胞の遺伝子発現プロファイルを比較したところ、LCH病変部位のCD1a陽性/CD207陽性樹状細胞は健常者の末梢血CD1c陽性骨髄系樹状細胞と比較して、HLA-DQB2発現が有意に高かった。HLA-DQB2抗原は、LCH病変部位のCD1a陽性CD207陰性樹状細胞およびCD1a陽性/CD207陽性樹状細胞、ならびにCD1c陽性(CD1a陽性/CD207陰性)骨髄系樹状細胞に認められたが、病変部位のその他の骨髄系細胞には認められなかった。HLA-DQB2は、末梢血にBRAF V600E変異陽性の単核細胞を認める患者の末梢血に特異的に発現し、これらの患者のBRAF V600E変異陽性細胞においてはHLA-DQB2陽性CD1c陽性細胞が極めて多かった。これらのデータは、ERKが活性化した末梢血中CD1c陽性HLA-DQB2陽性骨髄系樹状細胞が病変部位に移動し、CD1a陽性/CD207陽性の異常樹状細胞に分化することを示唆する。

3)「LCHにおいて、HLAクラスIに提示されるべきBRAF(V600E)に由来する腫瘍抗原の欠如により、CD8陽性T細胞によるLCH細胞への攻撃が阻害される」

Apparent Lack of BRAF (V600E) Derived HLA Class I Presented Neoantigens Hampers Neoplastic Cell Targeting by CD8(+) T Cells in Langerhans Cell Histiocytosis.

Kemps PG, et al. Front Immunol. 2020 Jan 10;10:3045.

LCHは、クローン性組織球(LCH細胞)にT細胞を含む様々な免疫細胞を混じた炎症病変を特徴とする、造血組織由来の悪性腫瘍である。50-60%のLCH症例のLCH細胞において、多くのがんでよく認められるBRAF V600E変異が検出されるが、この変異以外の遺伝子変異はほとんど認められない。BRAF V600Eのようなアミノ酸置換を伴う変異は、抗腫瘍CD8陽性T細胞の応答を効果的に誘発する腫瘍抗原となり得る。そのためには、腫瘍抗原がヒト白血球抗原(HLA)クラスI分子によって安定的に提示され、腫瘍部位に十分な数のCD8陽性T細胞が存在することが必要である。ここでは、101例のLCH病変を調べたところCD8陽性T細胞数にはかなりばらつきがあり、BRAF V600E変異陽性例の病変では、BRAF変異のない例に比べ、CD8陽性T細胞とCD1a陽性LCH細胞の比が有意に低い(p = 0.01)ことを示す。LCH病変部位のCD8陽性T細胞の密度は無イベント生存率に有意な影響がなかったため、細胞内に発現したBRAF V600E変異蛋白が自然に処理され腫瘍ペプチドに分解され、細胞表面HLAクラスI分子によって提示されるかどうかを検討した。エピトープ予測ツールにより、BRAF V600E由来の腫瘍ペプチド(KIGDFGLATEK)が一つのHLAクラスIに結合することが明らかになり、in vitroペプチドHLA結合解析により、このペプチドはHLA-A * 03:01およびHLA-A * 11:01に強度から中等度の結合力があることが示された。さまざまなHLA遺伝子型を持つ数種のBRAFV600E発現細胞株から単離されたHLAクラスIに提示されたペプチドに、このネオペプチドが存在するかを、質量分析に基づく標的ペプチドミクスを用い検討した。HLA-A * 02:01に結合するBRAF野生型ペプチドKIGDFGLATVは、このHLAサブタイプを発現する5つすべての細胞株から単離されたペプチドに見出されたが、KIGDFGLATEKは、HLA-A * 03:01またはHLA-A * 11:01の発現が確認された2つの異なるBRAF V600E導入細胞株のHLAクラスIペプチドには検出されなかった。これらのデータは、コンピュータ予測された、プロテアソームで生成されるHLAクラスIに結合するBRAF V600Eタンパク質に由来するネオペプチドは、HLAクラスI分子によって提示されないことを示している。化学療法不応性で免疫療法の適応になる可能性のあるLCH患者には、BRAF V600E変異が非常に多くみられるが、LCHにおいては免疫チェックポイント阻害剤療法の有効性には疑問がある。

4)「耳鼻頸部病変LCHの後方視的研究」

Retrospective study of Langerhans cell histiocytosis in ear, nose and neck.

Guo Y, et al. Am J Otolaryngol. 2020 Mar - Apr;41(2):102369.

【目的】LCHはまれな疾患である。耳鼻頸部病変のあるLCHの臨床症状、治療、予後を後方視的に分析した。【対象と方法】耳、鼻、または頸部に病変が確認されたLCHの28例を解析した。患者の年齢、性別、主訴、付随する症状、病変部位、放射線画像、治療、病理所見を分析した。Treacher-Collins症候群(TCS)に合併したLCHと診断された例で全エクソームシーケンスを行なった。【結果】年齢は平均14.9歳であった。ほとんどの例(93%)は耳に病変があり、乳様突起病変が多かった。最も頻度の高い症状は、耳の腫瘤と膿性分泌物であった。画像所見はあまり役に立たなかった。治療として手術、化学療法、放射性粒子埋め込み術が行われていた。多臓器型も含まれていた。ほとんどの患者は予後良好であった。1例がTCSに合併した側頭骨LCHと診断された。全エクソームシーケンスにより、POLR1D遺伝子(NM_015972)のエクソン2のヘテロ接合c.261_272delAGGTACCCTTCC(p.87_91delRGTLPinsR)変異が明らかになった。【結論】LCHは主に小児に発生する。頭頸部では、側頭骨の乳様突起の病変が多い。治療には、手術、化学療法、放射線療法などがある。ほとんどの患者は予後良好である。TCSを伴うLCHはまれであり診断が困難である。遺伝子解析はTCSの診断に役立つ。

5)「難治性小児LCHに対する造血幹細胞移植の全国的な後方視的観察研究」

Nationwide retrospective review of hematopoietic stem cell transplantation in children with refractory Langerhans cell histiocytosis.

Kudo K, et al. Int J Hematol. 2020 Jan;111(1):137-148.

小児LCHにおける造血幹細胞移植(HSCT)の有効性と適応は、未だ定まっていない。この後方視的研究では、1996年~2014年の間に日本でHSCTを受けた難治性小児LCHの30例を分析した。11例は骨髄破壊的前処置(MAC)を受け、19例は強度減弱前処置(RIC)を受けた。データがそろっている26例のうち、23例は臨床経過中にリスク臓器(RO)浸潤を認めた。HSCT時の病勢は、活動性病変なし(NAD)が4例、活動性病変改善(AD-r)が2例、活動性病変不変(AD-s)が4例、活動性病変進行性(AD-p)が16例であった。30例のうち17例(57%)が生存しており、HSCT後の追跡期間は中央値433日(範囲9〜5307)であった。死亡した13例のうち8例はHSCT後3か月以内に死亡していた。RIC群とMAC群において、全生存率(OS)(それぞれ56.8% vs. 63.6%, p=0.789)と治療成功生存率(それぞれ56.8% vs. 54.6%, p=0.938)に差はなかった。HSCT時の病勢がNAD/AD-rの6例は、AD-s/AD-pの20例よりも転帰は良好であった(5年OS、それぞれ100% vs. 54.5%, p=0.040)。HSCT時の病勢は最も重要な予後因子であった。

6)「小児LCHにおけるFDG PET-CT」

FDG PET-CT in pediatric Langerhans cell histiocytosis.

Jessop S, et al. Pediatr Blood Cancer. 2020 Jan;67(1):e28034.

【目的】小児LCHは、単一臓器と多臓器型に分かれる。正確な病型診断は、局所手術から化学療法まである治療法の中で、最も適切な方法を選択するために不可欠である。【方法】2006年6月~2017年2月に撮像した小児LCH患者のFDG PET-CTを後方視的に解析した。画像所見を、生検の所見や臨床経過と比較した。【結果】33例(生後7週~18歳)に、109回のスキャンを行った。病型は19例が孤発性骨型、7例が多発骨型、4例が孤発皮膚型、1例がリンパ節型、2例が多臓器型であった。病理学的に診断されたLCH患者の病型診断のために26回、治療反応性や治療終了後の再発の評価のために83回のスキャンを行なった。病型診断時のFDG PET-CTでは、切除された孤発骨病変を除き、生検で証明されたすべてのLCH病変が検出された。無治療で消失した胸腺の偽陽性所見を1例に認めた。病型診断時におけるFDG PET-CTの偽陽性率は4%(1/26)であった。経過観察中に、5回のLCH再発と1例の治療中増悪を認めたが、すべてFDG PET-CTで陽性であった。経過観察中、2例がFDG PET-CTで、1例がMRIで偽陽性所見を示した。経過観察中のFDG PET-CTの偽陽性率は2%(2/83)であった。【結論】FDG PET-CTは、小児LCHの病型診断および経過観察において非常に感度が高く、偽陽性率は非常に低い。

7)「眼窩LCHのMRI像」

MR imaging features of orbital Langerhans cell Histiocytosis.

Wu C, et al. BMC Ophthalmol. 2019 Dec 19;19(1):263.

【背景】診断精度を向上させるために眼窩LCHのMRI像を検討する。【方法】病理組織学的に診断された眼窩LCHの23例の臨床症状とMRI所見を後方視的に解析した。症状、病変の持続期間、病変の部位、病変の構成、病変の辺縁、MRI信号強度および造影効果について評価した。【結果】男性が18例(78%)、女性が5例(22%)で、発症時年齢は平均6.3歳であった。頻度の高い症状は、眼瞼腫脹、眼球突出、腫瘤触知であった。14例が眼瞼または眼球突出を呈していた。 22例は片側性で、1例は両側性であった。1例に咳嗽と喀痰を、1例に多飲・多尿を認めた。病変は、17例(74%)では、病変は上眼窩または上外側眼窩にあった。病変は腫瘤様または不規則な形状であった。23例中12例(52.2%)は不均一な等信号で、23例中10例(43.5%)はT1強調画像で等~低信号、23例中15例(65.2%)はT2強調画像で高信号と低信号が混在していた。7例はT1強調像で斑状の高信号を、11例はT2強調像で病変の辺縁部位に著しい高信号を示した。造影所見として、23例中21例(91.3%)では、病変の辺縁と周辺組織に顕著な造影効果、病変中心に不均一な明らかな造影効果がみられた。さらに、4例の病変は、円形の低信号に囲まれていた。【結論】臨床医に重要な情報が得られ、眼窩LCHの理解と診断精度を向上させる特徴的なMRI像が明らかとなった。

8)「再発性または難治性の小児および思春期BRAF V600変異陽性腫瘍患者における経口ダブラフェニブの第I相および薬物動態試験」

A Phase I and Pharmacokinetic Study of Oral Dabrafenib in Children and Adolescent Patients With Recurrent or Refractory BRAF V600 Mutation-Positive Solid Tumors

Kieran MW, et al. Clin Cancer Res. 2019 Dec 15;25(24):7294-7302.

【目的】2つのパートに分かれたI / IIa相、非盲検試験(NCT01677741)によって、小児の進行性のBRAF V600変異陽性腫瘍患者に対するダブラフェニブの安全性、忍容性、薬物動態、および暫定的な効果を検証する。【患者と方法】この第I相用量決定パートでは、BRAF V600変異陽性腫瘍のある1歳~18歳未満の患者に、ダブラフェニブ3.0〜5.25 mg / kg /日を経口投与し、安全性と薬物曝露量の目標に基づき、第 II 相臨床試験の推奨用量を決定した。【結果】2013年5月~2014年11月の間に、27例(男性12例、年齢中央値9歳[範囲 1〜17歳])の再発/治療不応性のBRAF V600変異陽性腫瘍(低悪性度または高悪性度の神経膠腫、LCH、神経芽細胞腫、甲状腺がん)が登録された。治療期間の中央値は75.6週間(範囲、5.6〜148.7週間)で、63%が52週間以上治療され、52%が最終観察時点で治療を継続されていた。治験薬との関連が疑われる最も頻度の高いグレード3/4の有害事象は、斑状丘疹と関節痛(各2例)であった。用量制限毒性は観察されなかった。薬物動態分析により、AUC0-12は用量依存的に増加すること、年齢‹12歳では5.25 mg / kg /日・年齢≥12歳では4.5 mg / kg /日(1日最大量300 mg)の2等分内服により成人の曝露量レベルが達成され、第II相での推奨用量であることが示された。【結論】この既治療の小児BRAF V600変異陽性腫瘍を対象とした初の臨床試験では、ダブラフェニブの忍容性は良好であることが示され、目標とする曝露量レベルが達成された。平均治療期間は1年以上で、多くの患者が治療継続中であった。第II相パートも終了しており、別に報告する。

9)「Rosai-Dorfman病の消化器系病変―血管障害に要注意:臨床病理学的分析」

Rosai-Dorfman Disease of the Digestive System-Beware Vasculopathy: A Clinicopathologic Analysis.

Alruwaii ZI, et al. Am J Surg Pathol. 2019 Dec;43(12):1644-1652.

Rosai-Dorfman病(RDD)は、リンパ節および節外に発生するまれな非LCH組織球症である。まれに消化器系病変が報告されている。RDDの消化管症状の特徴を明らかにするために、消化器系病変がある節外RDD患者11例の12病変を解析した。組織検体をHE染色と免疫組織化学染色で検討し、臨床情報を電子カルテなどから得た。8例が女性、3例が男性で、年齢は中央値65歳(範囲 17〜76歳)であった。腹痛が最も高頻度の症状であった。6例は、免疫疾患または悪性疾患を合併していた。9病変が消化管(虫垂1、右結腸2、左結腸6)、2病変が膵臓、1病変が肝臓に発生していた。2例がリンパ節病変を、1例が骨と軟部組織病変を、合併していた。多くの病変は、好酸性から透明な細胞質をもつ多角形から紡錘形の組織球とリンパ球形質細胞とからなっていた。7例にリンパ球の集塊を、6例に好中球の小集塊や限局的な散在を認めた。線維化は多様であり、4例では線状パターンを示した。毛細血管壁の肥厚、病的細胞と炎症細胞による中型動脈の壁浸潤、静脈炎といった血管障害を、それぞれ10、5、2例に認めた。全例がS100蛋白陽性であった。追跡調査を受けた5例のうち1例はIgA腎症を発症し、腎不全で死亡した。

10)「BRAF V600E変異は、孤発性の黄色肉芽腫および細網組織球腫の発がん性ドライバー変異ではない:Erdheim-Chester病のスクリーニングに役立つ可能性がある」

BRAF V600E mutations are not an oncogenic driver of solitary xanthogranuloma and reticulohistiocytoma: Testing may be useful in screening for Erdheim-Chester disease.

Hoyt BS, et al. Exp Mol Pathol. 2019 Dec;111:104320.

BRAF V600EはErdheim-Chester病(ECD)を含む、Lグループ組織球症の主な発がん性ドライバー変異である。しかし、非家族性の黄色肉芽腫ファミリー腫瘍(XG)の病変において、この変異の頻度に関するデータは少ない。この研究では、臨床的にXGや網状組織細胞腫(RH)と診断された患者においてBRAF V600E変異の頻度を明らかにすることを目的とした。58例(XG 41例、RH 17例)を後方視的に検討した。BRAF V600E変異の検出には、免疫組織化学(IHC)とPCR法を用いた。関節炎や悪性腫瘍、黄色腫、尿崩症、骨痛の病歴のない3例の成人RHにおいて、IHC / PCRによりBRAF V600E変異が検出された。他のすべてのXGとRHでは、BRAF V600E変異は陰性であった。このコホートでは全身性病変のある例はなかった。この結果から、BRAF V600E変異は、非家族性XGや孤立性RHの発がん性ドライバー変異ではないことが示唆される。したがって、BRAF V600E変異陽性で多臓器病変のある例では、XGやRHではなくECDを考慮すべきである。また、本報はBRAF V600E変異陽性の多臓器病変RH例の最初の報告である。