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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第32回 最新学術情報(2017.3)

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「LCHに対するビスホスホネート療法:国際的後方視的症例シリーズ」

Bisphosphonates in Langerhans Cell Histiocytosis: An International Retrospective Case Series.

Chellapandian D, et al. Mediterr J Hematol Infect Dis. 2016 Jul 1;8(1):e2016033.

【背景】骨はLCH患者の最も高頻度の病変臓器であり、しばしば痛みを伴い、病的骨折により重篤な状態とことがある。現在の第一選択治療である化学療法やステロイド療法は、有効であるがしばしば副作用を伴い、治療効果が得られても再発することがある。ビスホスホネートは破骨細胞抑制剤であり、LCHの骨病変の治療に有用であることが示されている。今までに、LCHの骨病変の治療におけるビスホスフォネートの役割を検証した大規模な国際的研究はない。【方法】診断時または再発時にビスホスホネートを投与された組織学的に診断されているLCH患者13例を対象とした多施設共同後方視的解析を行った。【結果】10例(77%)が骨単一臓器型、3例(23%)が骨病変のある多臓器型であった。ビスホスフォネート治療後の追跡期間の中央値は4.6年間(範囲0.8〜8.2)であった。ビスホスホネート治療により、ほぼすべての患者で疼痛が有意に軽減していた。12例(92%)で活動性骨病変が消失し、そのうち10例は中央値3.5年間(範囲0.8〜5)活動性病変が消失したままであった。1例は治療反応がなかった。重大な副作用の報告はなかった。【結論】ビスホスホネートは、骨痛を有意に改善し、LCHの活動性骨病変を寛解させる忍容性の高い薬剤である。LCHにおけるビスホスホネートの役割を検証する前向き研究を行う根拠となる。

2)「LCHにおいてBRAF V600E変異は、微小環境の腫瘍免疫抑制および無病生存期間の短縮と相関する」

BRAF V600E mutation correlates with suppressive tumor immune microenvironment and reduced disease-free survival in Langerhans cell histiocytosis.

Zeng K, et al. Oncoimmunology. 2016 Jun 14;5(7):e1185582.

LCHは、CD1aとCD207陽性の樹状細胞のクローン性増殖を特徴とする、骨髄由来の悪性疾患。LCHにおいてBRAF V600E変異が報告されている。BRAF V600E変異に対する特異性の高いモノクローナル抗体VE1により、後方視的に集積されたLCH患者の97例中36例(37.1%)で変異が検出され、その有用性を確認された。免疫組織化学とサンガーシークエンスの結果は、94.8%の症例で一致した。LCHの微小環境の腫瘍免疫を評価したところ、GATA3陽性リンパ球とT-bet陽性リンパ球の比によって、多臓器型/単一臓器多発病変型と単一病変単独病変型を区別できることを見出した。特筆すべきことに、BRAF V600E変異がPDL1高発現およびFOXP3陽性調節性T細胞増加と有意に相関することを見出した(それぞれp<0.001、0.009)。さらに、Cox多変量生存解析により、BRAF V600E変異およびPDL1高発現は、LCH患者の無病生存期間(DFS)を短縮させる独立した予後不良因子(それぞれ、ハザード比[HR]=2.38, 95%信頼区間1.02-5.56, p=0.044、HR=3.06, 95%CI 1.14-7.14, p=0.025)であり、PDL1高発現はBRAF V600E変異と比較して、より感度および特異性の高い、LCH患者のDFSに関連するマーカーであることがROC曲線から示された。総合すると、LCHにおいてBRAF V600E変異と微小環境の腫瘍免疫抑制の関係を明らかにした初の報告であり、宿主の腫瘍免疫監視が破綻することによりDFSが短縮する。この知見は、BRAF V600E変異のあるLCH患者に対し、免疫療法とBRAF標的療法を組み合わせた治療を行う理論的根拠となる。

3)「側頭骨の画像所見による小児の横紋筋肉腫とLCHの鑑別」

Differentiating Pediatric Rhabdomyosarcoma and Langerhans Cell Histiocytosis of the Temporal Bone by Imaging Appearance.

Chevallier KM, et al. AJNR Am J Neuroradiol. 2016 Jun;37(6):1185-9.

【背景と目的】横紋筋肉腫とLCHは、CTおよびMRI所見において同様の放射線学的特徴を呈する頭蓋底病変をきたす悪性疾患である。側頭骨病変の部位がどこかを画像所見により判断することが、この2つの悪性疾患を鑑別するための有用な傍証となる、と仮説を立てた。【対象と方法】LCHと横紋筋肉腫の患者を、学術三次医療施設の画像データベースと国際疾病分類、第9改訂コードを用いて検索した。横断画像を神経耳鼻科医と神経放射線科医によって見直し、病変の部位を評価し、中耳、乳様突起、錐体尖、後S状洞溝、後頭蓋窩に浸潤なし=0点、部分浸潤あり=1点、完全浸潤=2点でスコア化した。【結果】LCH患者12例(14病変)と横紋筋肉腫患者9例(9病変)が見出された。乳様突起の浸潤スコアは、LCHでは23/28点(82%)であったが、横紋筋肉腫では6/18点(33%)と低かった(p=0.001)。側頭骨前部(錐体尖および中耳)のみへの浸潤は、LCHでは1/14病変(7.1%)であっが、横紋筋肉腫では5/9病変(55%)と多かった(p=0.018)。皮質骨への浸潤スコアは、LCHでは11/28点(39%)と、横隔膜肉腫の2/18点(11%)に比べ、高かった(p<0.05)。【結論】これらの結果から、側頭骨前部のみの病変(錐体尖および中耳)の場合、LCHよりも横紋筋肉腫である可能性が高い。乳様突起の病変の場合、横紋筋肉腫よりもLCHの可能性が高い。画像所見に基づき病変部位を知ることが、病理所見の予測に役立つ可能性がある。

4)「非腫瘍性の下垂体前葉におけるCD1aの染色性」

CD1a Reactivity in Non-neoplastic Adenohypophysis.

Pisapia DJ, et al. Am J Surg Pathol. 2016 Jun;40(6):812-7.

トルコ鞍または鞍上部病変を呈する患者の鑑別診断としてLCHが挙げられる。組織切片のCD1a染色は、ランゲルハンス細胞の異常な増殖の存在を同定するために頻繁に使用され、LCHの診断に寄与する。ここでは、CD1a抗原に対するMTB-1モノクローナル抗体が生理的な下垂体前葉上皮細胞に反応することを報告する。剖検および外科的に切除されたすべての非腫瘍性下垂体前葉において、免疫組織化学染色でCD1aは強陽性に染まる。したがって、CD1aの陽性率は注意深く解釈するべきであり、LCHと診断する前に、形態学的検討と共に、CD1a、ランゲリン、シナプトフィジンを含む染色パネルをルーチンに使用することを推奨する。さらに、下垂体腺腫ではCD1aは陰性であり、CD1a染色は非腫瘍性下垂体のマーカーとしても有用と考えられる。

5)「肺LCHにおけるNRAS変異」

Recurrent NRAS mutations in pulmonary Langerhans cell histiocytosis.

Mourah S, et al. Eur Respir J. 2016 Jun;47(6):1785-96.

LCHにおいてMAPキナーゼ経路は常に活性化されている。多くのLCH病変において、MAPキナーゼ経路のリン酸化酵素であるBRAFおよびMAP2K1の変異がこの活性化に関わっている。本研究では、BRAFおよびMAP2K1 変異陰性のLCH病変において、MAPキナーゼ活性化に関わる他の遺伝子変異の同定を試みた。26例の肺LCHおよび37例の肺外LCH病変において、BRAFMAP2K1NRASKRAS変異の有無を分析した。対照として、喫煙者10人の肺組織を用いた。患者の自然転帰を同時に評価した。BRAF V600E変異は、肺LCH病変の50%、肺外LCH病変の38%にみられた。40%の肺LCH病変にNRAS Q61K/R変異がみられたが、肺外LCH病変や肺組織対照ではNRAS変異は同定されなかった。NRAS Q61K/ R変異陽性の肺病変の11例中7例では、BRAF V600E変異も存在していた。同じ肺LCH病変のCD1a陽性領域を別々に遺伝子解析すると、BRAF変異陽性細胞とNRAS変異陽性細胞は異なることが示された。NRAS Q61K/ R変異は、MAPキナーゼ経路とAKT(プロテインキナーゼB)経路の両方を活性化した。単変量解析では、BRAF V600E変異とNRAS Q61K/R変異の両者がある患者では有意に予後不良であった。これらの知見は、肺LCH病変においてNRAS変異の検索の重要性を示している。なぜなら、BRAF変異とNRAS変異を併せ持つ例にBRAF阻害剤を使用すると、逆に疾患の進行につながる可能性がある。これらの患者は、MAPKキナーゼ阻害剤により治療効果が得られる可能性がある。

6)「LCHにおけるBRAFおよびMAP2K1変異:50例の研究」

BRAF and MAP2K1 mutations in Langerhans cell histiocytosis: a study of 50 cases.

Alayed K, et al. Hum Pathol. 2016 Jun;52:61-7.

LCHは、リンパ球や好酸球、マクロファージ、巨細胞の浸潤をしばしば伴うランゲルハンス細胞の増殖症である。BRAF変異(通常はV600E)が40%〜70%の症例で報告されており、最近BRAF変異陰性例ではMAP2K1変異が報告されている。50例のLCH症例においてBRAF変異を検索し、そのうち何例かにおいてはMAP2K1変異を検索した。男性28例、女性22例(年齢中央値36.5歳、1〜78歳)を対象とした。BRAF V600E変異は8例(16%)に検出され、皮膚組織3/10例(30%)、骨組織2/18例(11%)、大腸組織1/2例(50%)、肺組織1/5例(20%)、頭蓋内硬膜外腫瘤組織1/3例(33%)であった。MAP2K1変異はBRAF変異陰性の6/13例(46%)に検出され、リンパ節組織2/2例(100%)、骨組織2/4例(50%)、皮膚組織1/4例(25%)、眼窩組織1/1例(100%)であった。BRAF変異陽性例は異陰性例に比べ若年であった(中央値:28歳 vs. 38歳, p=0.026)。MAP2K1変異陽性例と陰性例で年齢に差はなかった(中央値:34.5歳 vs. 41歳, p=0.368)。最近の2つの報告に一致し、BRAF変異陰性例においてMAP2K1変異の頻度が高かった。既報とは異なり、このコホートにおけるBRAF変異の全体の頻度は、小児患者で報告されたものよりも実質的に低くかったが、おそらく本研究の症例の多くが成人例であったためと考えられる。さらに、BRAF変異において、遺伝子解析と免疫組織化学分析の結果がほぼ一致することが示された。BRAF変異またはMAP2K1変異と、病変部位、単一病変か多病変か、臨床転帰との間に統計学的に有意な関連性はなかった。

7)「小児の頭頸部の若年性黄色肉芽腫の画像所見」

Imaging Features of Juvenile Xanthogranuloma of the Pediatric Head and Neck.

Ginat DT, et al. AJNR Am J Neuroradiol. 2016 May;37(5):910-6.

【背景と目的】若年性黄色腫(JXG)は、主として小児に発症する非LCH組織球症である。組織学的に診断された小児の頭頸部のJXGの画像所見の特徴を明らかにすることを目的とした。【対象と方法】組織学的に診断された頭頸部のJXGの診療録と画像所見を後方視的に解析した。【結果】1か月~12歳の10例(女児6例、男児4例)の患者があり、画像評価は、超音波のみが1例、CTのみが2例、CTおよび超音波が1例、MRIのみが3例、MRIおよびCTが3例であった。9例は単発性、1例は多発性であった。単発性の例では、外耳道部、耳下腺領域、頭蓋内進展を伴う側頭下窩部、前頭皮、硬膜に沿って頭蓋冠に浸潤する骨膜下腔に病変がみられた。多発性の1例は、頭皮および頭蓋冠、硬膜に腫瘤形成がみられた。臨床症状は腫瘤触知と機能障害であった。JXGは、超音波検査では、低エコーであった。造影CTでは、腫瘤は筋肉と同程度に均質に造影され、骨破壊を伴う例もあった。MRIでは、大脳皮質と比較しT1強調で高または等信号、T2強調で低または等信号で、拡散強調で低信号、均一に造影された。鑑別診断にJX Gが含まれていた例はなかった。【結論】頭頸部のJXGは様々な所見を示した。大脳皮質と比較しT1強調で軽度の高信号、T2強調で低信号、拡散強調で低信号、均一に造影ざれることが特徴的である。放射線科医は、これらの所見を認識しておくことによって、小児の頭頸部腫瘤の鑑別診断にJXGを含むようになると考えられる。

8)「急速進行性の肺単独LCHにおける肺移植への橋渡しとしての長期体外膜酸素化療法」

Long-Term Extracorporeal Membrane Oxygenation as Bridging Strategies to Lung Transplantation in Rapidly Devastating Isolated Langerhans Cell Histiocytosis.

Sacco O, et al. Pediatr Blood Cancer. 2016 May;63(5):941-3.

小児LCHにおける肺単独病変は極めてまれである。多臓器型LCHの経過は、自然治癒から急速に悪化し致死的となるまでさまざまであるが、単一臓器型の予後は一般的には良好である。肺単独LCHの小児が、プレドニゾンおよびビンブラスチンによる治療にもかかわらず、非常に急速に進行し呼吸不全となった。肺の過膨張と嚢胞性病変のため従来の人工呼吸換気が不可能であったので、肺移植への橋渡しとして50日間、体外膜酸素化療法(ECMO)を選択した。疾患の進行の機序および長期ECMOの有用性について議論する。

9)「骨盤と四肢のLCHのMRI画像と臨床的特徴:LCHの本当はどのように見えるか?」

MRI and clinical features of Langerhans cell histiocytosis (LCH) in the pelvis and extremities: can LCH really look like anything?

Samet J, et al. Skeletal Radiol. 2016 May;45(5):607-13.

【目的】骨盤および四肢のLCHの臨床的およびMRI画像の特徴を評価する。【対象と方法】病理学的に証明された21例の骨盤および四肢のLCH病変のMRI画像および臨床的特徴を検討した。部位、大きさ、T1 / T2 /造影画像、病変周囲の骨および軟部組織の信号、骨内膜の波様変化、骨膜の反応、軟部組織腫瘤、病的骨折など、病変の複数の特徴を評価した。生検前の放射線診断の情報を収集した。可能な例では、診断時の赤沈、CRP、体温、白血球数のデータも収集した。【結果】LCHの病変部位は、上腕骨5例、大腿4例、腸骨5例、脛骨1例、鎖骨1例、肩甲骨3例であった。病変の大きさは1.8cm~7.1cmで平均3.6cmであった。すべての病変で、病変周囲の骨髄浮腫、骨膜反応、骨内膜の波様変化、および造影効果を認めた。15/21例(71.4%)で軟部組織腫瘤を伴った。臨床的には、白血球増多を2/14例(14%)、赤沈亢進を8/12例(67%)、CRP上昇を4/10例(40%)で認めた。1/15例(7%)で発熱を、15/15例(100%)に骨痛を認めた。【結論】骨盤および四肢のLCHの臨床的および放射線学的特徴は、感染や悪性腫瘍と重複するが、骨内膜の波様変化や骨膜反応、病変周囲の浮腫、軟部腫瘤など侵攻性のMRI所見を示すので、鑑別診断にLCHを挙げるべきである。さらに、MRI所見が侵攻性ではない骨病変の場合、LCHの可能性は低い。

10)「LCHにおけるBRAF V600変異の新しい簡便な検出法」

BRAF V600 mutations in Langerhans cell histiocytosis with a simple and unique assay.

Tatsuno M, et al. Diagn Pathol. 2016 Apr 19;11:39.

【背景】BRAFは、細胞の生存、増殖、分化に関与するセリン-スレオニン蛋白リン酸化酵素である。BRAFの最も高頻度なミスセンス変異(主にV600E)は、LCHを含む様々ながんの発生に寄与する。V600E変異を分子標的とするBRAF阻害剤が、変異の影響を打ち消すために開発されている。効果的な薬物療法を確実に行うためには、V600E変異についてLCH患者をスクリーニングする、効果的な方法を開発することが不可欠である。しかし、典型的なLCHの腫瘍組織には多くの炎症細胞が含まれるので、DNA配列分析において変異状態を正確に判断することは困難である。【結果】本研究では、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織標本から抽出したDNAを用い、PCRと制限酵素消化、DNA配列分析を組み合わせた新しい高感度解析法を提示する。TspRIは野生型BRAFのコドン600を含む配列を2つの断片に切断する制限酵素であり、断片化されたDNAはBRAFのPCR増幅の鋳型とならない。一次PCR産物をTspRIで消化した後、二次PCRで増幅し、そのPCR産物の配列を決定しBRAF V600変異を検出する方法の感度を評価した。32例のLCH患者のFFPE組織サンプルで、V600E変異を解析した。この方法により、標準的なPCRおよびシークエンシングでは、判定不能の4例および陰性と判定された10例で変異を同定することができた。【結論】BRAF V600変異を検出するための新しい高感度の方法を提示した。このスクリーニング方法は、最も有効な治療法を選択するために重要な役割を果たすことが期待される。