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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第46回 最新学術情報

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「小児の肺LCH例の胸部CT所見」

Chest computed tomography findings for a cohort of children with pulmonary Langerhans cell histiocytosis.

Della Valle V, et al. Pediatr Blood Cancer. 2020 Oct;67(10):e28496.

【目的】本研究は、小児の肺LCHの肺CT所見を分析し、成人呼吸器専門医によって提案されたCT所見による結節および嚢胞スコアを小児肺LCHにおいて診断時と経過観察中に評価するために行った。【方法】フランスの全国LCHコホートにおける小児の肺LCH 175例の中から、CT所見が得られた60例を後方視的に抽出し、3人の小児放射線科医により中央診断を行った。これらの60例は、リスク臓器病変の割合が低い(38% vs. 54%, P=0.05)ことを除き、ほぼすべての臨床所見で小児の肺LCHを代表していた。【結果】60例の胸部CT 218スキャンを検討した。診断時に、63%に結節が、53%に嚢胞が、29%に両者が認められた。結節または嚢胞のある患者割合は、疾患活動性のピークには、それぞれ63%から73%、53%から66%に増加した。71%に肋骨横隔膜角の近辺に病変を認めた。気胸のある例(25%)では、嚢胞スコアの中央値は高かった。34%で浸潤影を認めた。CTでの結節と嚢胞スコアが低い例では、晩期の肺後遺症を認めなかった。【結論】成人肺LCHでよく知られた特徴(結節と嚢胞)は小児でも観察された。成人の呼吸器専門医によって提案された胸部CTスコアは、小児の肺LCHに容易に適用可能である。小児の病変は、成人の病変とは異なり、肋骨横隔膜角の近く認めることが多い。浸潤影は小児肺LCHの非定型的特徴かもしれない。

2)「日本のLCH患者におけるBRAFおよびMAP2K1変異の分析」

Analysis of the BRAF and MAP2K1 mutations in patients with Langerhans cell histiocytosis in Japan.

Hayase T, et al. Int J Hematol. 2020 Oct;112(4):560-567.

西洋諸国ではLCHの80%以上の例において、BRAFおよびMAP2K1などのMAPキナーゼ経路の相互排他的な体細胞遺伝子変異が同定されている。その中で、BRAF V600E変異が最多(50-60%)である。肺単独LCHを含まない日本のLCH患者59例(小児50例、成人9例)で、最初に全例にBRAF V600E変異のスクリーニングをし、続いて17例のBRAF V600E変異陰性例で他の遺伝子変異のターゲットシーケンスを行った。その結果、BRAF V600E変異が27/59例(46%)で検出された。また、5例でV600E変異以外のBRAF変異、9例でMAP2K1変異を見出した。よって、ターゲットシークエンスまで行った44例のうち41例(93%)でBRAFまたはMAP2K1遺伝子の変異が同定された。小児例の臨床的特徴と遺伝子型の関連の解析では、BRAF V600E変異の有無と、性別、診断時年齢、病型、初期治療の反応、再発、CNS関連合併症とは関連しなかった。興味深いことに、MAP2K1エクソン2のインフレーム欠失はリスク臓器病変と関連していた。しかし、LCHにおける臨床的特徴とこれらの遺伝子変異の関連を明らかにするためには、さらなる研究が必要である。

3)「肺病変を伴う成人LCH患者の臨床症状と予後の分析」

Clinical presentation and prognostic analysis of adult patients with Langerhans cell histiocytosis with pulmonary involvement.

Miao HL, et al. BMC Cancer. 2020 Sep 23;20(1):911.

【背景】この研究は、肺病変を伴う成人LCH、特に多臓器(MS)型の臨床的特徴と予後因子を分析することを目的とした。【方法】1990年1月~2019年11月に当センターで診療した肺病変を有する成人LCH患者119例の年齢/性別、臨床的特徴、治療転帰を後方視的に分析した。【結果】119例のうち、13例(10.9%)が単一臓器(SS)型、106例(89.1%)が肺病変を伴うMS型であった。SS型は、MS型に比べ、喫煙率(84.6% vs. 52.8%, P=0.026)および喫煙指数(300 vs. 200, P=0.019)が高かった。SS型は、MS型に比べ、呼吸器症状を呈する割合が高かった(84.6% vs. 53.8%, P=0.034)。83.8%に呼吸機能の低下を認め、DLCO低下が最も高頻度で81.1%に達した。DLCOの中央値は予測値の65.1%であった。気胸のある例は、気胸のない例と比べ、DLCO、FEV1、FEV1/FVC値が有意に低かった(それぞれP=0.022、P=0.000、P=0.000)。経過観察中、肺機能検査値は72.4%の例で安定し、13.8%で化学療法後に改善した。3年の推定OSとEFSはそれぞれ89.7と58.3%であった。FEV1の基礎値が予測値の≤55%であった群でOSは低かった。気胸の既往がある群でEFSは低く、シタラビンを中心とした治療を受けた群ではEFSは良好であった。【結論】FEV1が予測値の≤55%の例、診断時に気胸の既往がある例は予後不良であった。シタラビンを中心とした治療は、肺病変のあるLCH患者の肺機能の低下を阻止し、EFSを改善する可能性がある。

4)「ポーランドの小児血液腫瘍病院における小児LCH患者の臨床的特徴と転帰」

Clinical characteristics and outcome of pediatric patients diagnosed with Langerhans cell histiocytosis in pediatric hematology and oncology centers in Poland.

Raciborska A, et al. BMC Cancer. 2020 Sep 11;20(1):874.

【背景】LCHは100万人あたり1〜2人に発生する。この疾患の多く、特に年長児においては治療が奏功するが、適切な治療によって、患者の生活の質を大幅に悪化させる合併症の発症を抑えることができる。よって、ポーランドの小児血液腫瘍センターで治療された小児LCHの臨床的特徴、治療、および転帰の評価を計画した。【症例と方法】2010年~2017年に182例のLCH患者が組織球学会ガイドラインに従い治療を受けた。参加施設から、患者の年齢/性別、臨床データ、局所または全身治療、転帰のデータを得た。全生存期間(OS)と無イベント生存期間(EFS)は、カプランマイヤー法によって推定し、ログランク検定を用いて比較した。【結果】69%が単一臓器(SS)型であった。SS型は、多臓器(MS)型と比較し、有意に年長(6.0歳 vs. 2.3歳, p=0.003)であった。骨病変を76%に認めた。SS型の47%、MS型の98%が全身治療を受けていた。14例が再発し、2例が死亡していた。全体のOSとEFSは、追跡期間中央値4.3年で、それぞれ99%と91%であった。【結論】ポーランドでのLCHの治療は効果的であったが、治療の変更や強化を要する可能性のある患者を特定するためには、遺伝子変異解析や施設間の良好な協力などの新たな取り組みが必要である。

5)「重度の肺病変を伴う小児LCH:全国コホート研究」

Childhood Langerhans cell histiocytosis with severe lung involvement: a nationwide cohort study.

Le Louet S, et al. Orphanet J Rare Dis. 2020 Sep 9;15(1):241.

【背景】小児LCHの肺病変はまれであり、生命にかかわることはほとんどないが、まれに重度の症状を認める。【方法】フランスのLCHレジストリ(1994-2018)に登録された1482例の小児(<15歳)のうち、111例(7.4%)に肺病変を認めた。この後方視的研究では、呼吸不全のために集中治療室(ICU)に1回以上入院を必要とした17例(1.1%)を解析した。【結果】初回のICU入院時の年齢は中央値1.3歳であった。17例のうち、14例はLCH診断時に肺病変を認め、7例(41%)がリスク臓器(血液、脾臓、または肝臓)浸潤を伴っていた。35回のICU入院を分析した。これらのうち、22回(63%)は気胸のため、5回(14%)は気胸を伴わない重大な嚢胞性病変のため、8回(23%)は多臓器病変を伴ったびまん性微小結節性肺浸潤のためであった。16例に第一選択治療のビンブラスチン/コルチコステロイド併用療法が行われ、12例が二次治療(クラドリビン7例、エトポシド/シタラビン3例、標的療法2例)を必要とした。6例(35%)が死亡した(反復性気胸3例、多臓器病変を伴ったびまん性微小結節性肺浸潤2例、肺移植後1例)。生存例のICU入院後の追跡期間は中央値11.2年であった。これらのうち、9例は胸部画像に異常所見が残っているが無症状であった。【結論】重度の肺病変は小児LCHではまれであるが、死亡率は高い。このような患者の治療ガイドラインは改善されるべきで、ウイルス感染予防および標的療法などの新しい治療法の早期導入が望まれる。

6)「ギリシャにおける成人LCHの年間発生率」

The annual incidence of Langerhans cell histiocytosis among adults living in Greece.

Makras P, et al. Pediatr Blood Cancer. 2020 Sep;67(9):e28422.

LCHは、臨床経過と転帰が様々なまれな炎症性骨髄性腫瘍である。小児のLCH発生率についてはいくつかのデータがあるが、成人の情報は乏しい。成人の実際の年間LCH発生率を明らかにするために、ギリシャ在住の18歳以上を対象に、12か月間に組織学的にLCHと診断が確定した新規症例を前方視的に記録した。14例の新規症例があり、人口100万人あたりの年間発生率は1.58であった。女性と男性の比率は1.34で、診断時の平均年齢は43.5歳であった。

7)「小児の非活動性単一臓器型LCHにおける化学療法を回避するための待機的アプローチ」

A "Wait-and-See" Approach to Quiescent Single-System Langerhans Cell Histiocytosis to Spare Children From Chemotherapy

Oh B, et al. Front Pediatr 2020 Aug 12;8:466.

【背景】LCHは小児期の組織症で、一般的には全身化学療法により治療される。以前から、多臓器型よりも低侵攻性である単一臓器(SS)型LCHでは、自然治癒することがあると報告されている。しかし、どのような例が全身化学療法を回避できるのか、明確なガイドラインはない。ここでは、保存的な待機的アプローチによって化学療法を回避できる可能性のある低リスク症例を見出すための、臨床的および生化学的データによって決定される疾患活動性に基づくリスク層別化を提案する。【方法】単一施設で小児SS型LCHを後方視的に解析し、化学療法を受けた患者と保存的に管理された非活動性患者の炎症の特徴と転帰を比較した。【結果】小児SS型LCHの44例のうち、リスク臓器浸潤のない例のみを保存的な管理の対象とした。疾患活動性の臨床的および生化学的データによって非活動性とみなされた例は待機的アプローチとした。2週間の注意深い観察の後、治療を開始するか、保存的な管理を継続するかを決定した。診断時のデータでは、非活動性状態の患者は、血小板数が低値(平均339×109 /L [95%CI:285-393] vs. 482×109 /L [95%CI:420-544], p<0.01)、白血球数が低値(平均9.3×109 /L [95%CI:7.5-11.1] vs. 13.1×109 /L [95%CI:11-15.2], p <0.01、赤血球沈降速度(ESR)が低値(平均8.2 mm /h [95%CI:5.4-11] vs. 53.7 mm /h [95%CI:11-96.3], p = 0.04)であり、これらが疾患活動性の生化学的マーカーとなる可能性が示唆された。その他の非活動性状態の特徴として、急速な進行や機能障害、発熱がなく、頭蓋骨が腫脹せず陥凹していることが挙げられた。【結論】提案したSS型LCHの疾患活動性の定義を検証するために、さらなる研究が必要である。今回の分析においては、臨床的および生化学的に非活動性SS型LCHに分類された低リスク例は、長期転帰は良好であり化学療法を回避できる可能性があると考えられる。

8)「口腔顔面症状を主とする小児LCH:2施設における45例の後方視的解析」

Primary Oro-Facial Manifestations of Langerhans Cell Histiocytosis in Pediatric Age: A Bi-Institutional Retrospective Study on 45 Cases.

Capodiferro S, et al. Children (Basel). 2020 Aug 19;7(9):104.

【目的】LCHは小児に好発し、頭頸部病変が最も多いまれな造血器疾患である。口腔顔面症状を主とすることはまれであり、口腔顔面症状は多彩で、従来の内科的および/または外科的治療に抵抗性のありふれた疾患に類似していることがしばしばあるため、その診断は容易ではない。このような理由から診断はしばしば遅れ、病型分類や治療開始も同様に遅れる。頭頸部に初発した45例の小児LCH患者を後方視的に解析し、初期段階での臨床的および放射線学的特徴を分析した。【症例と方法】2施設(ローマ大学「サピエンツァ」大学小児歯科および小児腫瘍科、バーリ大学「アルドモロ」学際医学科)における、口腔顔面病変で発症した45例(年齢範囲:0~18歳)のLCHを後方視的に解析した。臨床像、病変数、部位、同時発症か異時発症か、病変臓器、放射線学的特徴、および臨床転帰に関するデータを収集し、2つの年齢層(0〜10歳および10〜18歳)に分けて分析した。【結果】症例は男性26人と女性19人で、診断時年齢は平均4.8±3.8歳(中央値:3.9歳)であった。最も多い所見は、炎症・過形成・痛みを伴う歯肉病変(22例)で、多くは潰瘍形成し、うち18例で骨融解による乳歯の動揺や脱臼を伴っていた。次いで、下顎の孤発性好酸球性肉芽腫が9例、上顎骨の孤発性好酸球性肉芽腫が2例であった。口蓋粘膜の病変を6例に認めた。9例は下顎骨にX線像で特徴的な「浮遊歯」像を認め、うち6例は同時に上顎骨にも病変を認めた。知覚異常は比較的まれ(3例)で、下顎の病的骨折を6例に認めた。頭頸部リンパ節病変は、口腔病変に関連して12例、頭蓋骨病変に関連して14例で認めた。中耳炎または外耳炎を4例、眼球突出を2例、皮疹を9例、中枢性尿崩症(診断時または経過中)を8例に認めた。治療に関しては、孤発または小さな多発顎骨病変はすべて外科的に除去されていた。約80%の例がビンブラスチン単独またはコルチコステロイド併用による化学療法を受けていた。50%以上の例がコルチコステロイドを投与されたが、補助的放射線療法を受けたのは3例のみであった。総死亡率は9%未満(45例中4例)で、8例が治療後に再発した。【結論】LCHは、口腔顔面の炎症性や腫瘍性疾患に類似することがある。頭頸部に限局した小児LCH、特に歯や歯槽骨の喪失を伴う歯周組織病変では、非可逆的後遺症が続発する可能性があることを考慮すると、疑わしい病変ではLCHを考慮して組織学的検査を行うことが、早期診断と他臓器病変の予防のために必須である。

9)「眼窩LCHの臨床像と治療転帰」

Clinical spectrum and management outcomes of Langerhans cell histiocytosis of the orbit

Koka K, et al. Indian J Ophthalmol 2020 Aug;68(8):1604-1608.

【目的】眼窩病変のあるLCHの臨床像と治療転帰を分析する。【方法】過去15年間、インドのチェンナイにあるSankara Nethralayaに来院した眼窩LCHを後方視的に解析した。年齢・性別、初発症状、放射線画像、組織病理、免疫組織化学、治療転帰を分析した。【結果】9例を解析した。発症年齢は平均10.12±14.31歳(範囲:6週間~35歳)であった。症状として、眼瞼腫脹が4例(44.4%)と最も多く、次いで眼球突出が3例(33.3%)と多かった。発症から診断までの期間は平均2.21±2.77か月であった。放射線学的検査で、6例(66.6%)に上眼窩の骨融解を認めた。6例はほぼ完全な腫瘤切除術を、3例は切開生検を受けていた。組織病理学検査で、核溝を有する組織球およびLCHに特徴的な多数の好酸球を認めた。組織球はCD1aおよびS100陽性であった。多臓器型の例はなかった。3例は全身ステロイド療法を、4例は全身化学療法を受けていた。観察期間平均17.85±23.46か月で、全例が再発兆候なく完全寛解状態であった。1例はほぼ完全な腫瘤切除後に追跡不能、眼窩脂肪体腔内に腫瘤がみられた1例の成人患者はほぼ完全な切除後に腫瘤が残存したが再発はなかった。【結論】LCHは、小児に好発しまれに眼窩病変を呈する疾患であり、眼窩の溶骨性病変の鑑別疾患である。多臓器病変を除外するため全例で全身検索をする必要がある。治療は、疾患の程度とリスク因子によって異なる。

10)「成人LCHの臨床的特徴と転帰:単一施設での経験」

Clinical features and outcomes of adult Langerhans cell histiocytosis: a single-center experience.

Kobayashi M, et al. Int J Hematol. 2020 Aug;112(2):185-192.

LCHは、CD1a陽性/CD207陽性の骨髄性樹状細胞の集簇を特徴とするクローン性腫瘍である。LCHはまれな疾患であり、小児に好発すると考えられているため、成人LCHの臨床的特徴と治療転帰は十分に解明されていない。2005年~2018年に東京大学医科学研究所に紹介された成人LCH患者53例を後方視的に検討した。診断時年齢は中央値42歳で、女性がわずかに多かった(57%)。発症から診断までの期間は様々であった(中央値:8か月、範囲:0〜144か月)。40%が単一臓器型、60%が多臓器型であった。最も高頻度の病変臓器は骨(62%)で、次に中枢神経系(34%)、肺(28%)が多かった。26例が全身治療を必要とし、25例がSpecial Cレジメンを受けていた。Special Cレジメンを受けた例のうち、20例(80%)は、部分反応以上の治療効果を示し、有害事象は軽微であった。1例を除く全例が生存中である。追跡期間の中央値は35.5か月であるが、無増悪生存率は50%を下回っていない。免疫組織化学検査により、39%の例がBRAF V600E変異陽性であることが判明した。この割合は北米およびヨーロッパからの以前の報告よりも低い。