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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第40回 最新学術情報

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「LCHにおける新規融合遺伝子PLEKHA6-NTRK3

A novel fusion gene PLEKHA6-NTRK3 in langerhans cell histiocytosis.

Cai J, et al. Int J Cancer. 2019 Jan 1;144(1):117-124.

LCHは、RAS-RAF-MEK-ERK (MAPキナーゼ)細胞シグナル伝達経路の恒常的活性化を伴う、最も頻度の高い組織球症である。サンガーシークエンシングにより89例のBRAFおよびMAP2K1遺伝子変異を分析し、そのうち18例は、これら2つの遺伝子に変異を認めなかった。これらの変異陰性症例の全ゲノム配列解析によって、1症例において、PLEKHA6のイントロン3とNTRK3のイントロン13の転座が明らかになった。この転座から新規の融合変異、PLEKHA6-NTRK3が生じる可能性を確認した。NIH 3T3細胞にPLEKHA6-NTRK3融合遺伝子を過剰発現させるとMAPキナーゼ経路が活性化し、細胞増殖が促進された。この結果から、LCHにおける遺伝子変異の頻度を明らかにするために、LCH遺伝子変異スクリーニングパネルに新たな変異を含める必要がある。

2)「JAG2シグナル伝達はCD14 陽性単球をLCH細胞様に分化誘導する」

JAG2 signaling induces differentiation of CD14+ monocytes into Langerhans cell histiocytosis-like cells.

Schwentner R, et al. J Leukoc Biol. 2019 Jan;105(1):101-111.

LCHは、起源不明のCD1a陽性/ランゲリン陽性細胞の集簇を特徴とする、MAPキナーゼ経路が活性化した疾患である。既に、Notchシグナル伝達経路がLCH病変において活性化していること、NotchリガンドJagged2 (JAG2)が in vitroで単球にCD1aとランゲリンの発現を誘導することを報告している。ここでは、Notchシグナル伝達が単球にLCH細胞と同様の遺伝子発現を誘導すること、Notch阻害剤がLCH細胞様の形質を抑制することを示す。対照的に、CD1c陽性樹状細胞やIL-4で刺激したCD14陽性単球も培養するとCD1aおよびランゲリン陽性となるが、それらの遺伝子発現プロファイルおよび表面形質はLCH細胞とは異なる。CD14陽性単球がLCH細胞前駆体となり、JAG2によるNotchシグナル伝達経路の活性化が、特定の環境において単球からLCH細胞への分化を誘導することが、LCH発症に寄与すると推察する。

3)「小児LCH患者における中枢性尿崩症: JLSG-96/02研究の結果」

Central diabetes insipidus in pediatric patients with Langerhans cell histiocytosis: Results from the JLSG-96/02 studies.

Sakamoto K, et al. Pediatr Blood Cancer. 2019 Jan;66(1):e27454.

【目的】シタラビン(Ara-C)を含む多剤併用化学療法を用いる日本LCH研究グループ(JLSG)レジメンに従って治療された小児LCH患者における中枢性尿崩症(CDI)の発生を解析した。【方法】JLSG-96/02レジメンに従って治療された317例(多臓器(MS)型206例、多発骨(MFB)型111例)のデータを後方視的に分析した。【結果】追跡期間中央値は10.6年(範囲、0.1-21.1)であった。計50/317例(15.8%)がCDIを発症した(MS型46例、MFB型4例)。 CDIは、25例ではLCH診断時に既に存在し(前CDI)、他の25例では診断後や治療開始後に新たに発症した(後CDI)。カプランマイヤー分析によって算出された10年時点の後CDIの累積発生率は、全体で9.0%、MS型で12.0%であった。診断時のCNSリスク部位のLCH病変は、前CDIと関連していた(17/164 vs. 8/171; p=0.0359)が、後CDIとは関連していなかった(14/129 vs. 11/163; p=0.254)。多変量解析では、CNSリスク部位への再発が後CDI発症と有意に関連していた(ハザード比: 4.70; 95%CI 1.29-17.1, p<0.05)。【結論】JLSG-96/02研究では、15.8%がCDIを発症し、その半分は前CDI、残りの半分は後CDIであった。特にCNSリスク部位への再発は、後CDIの発症と関連していた。

4)「肺LCH患者における気胸

Pneumothorax in Patients with Pulmonary Langerhans Cell Histiocytosis.

Radzikowska E, et al. Lung. 2018 Dec;196(6):715-720.

【背景】肺LCHでは、しばしば気胸を伴うが、一部の患者では正しい診断までに長期間かかる。【目的】肺LCHにおける気胸の頻度を明らかにし、早期診断のための胸部CT検査の有用性を分析した。【患者と方法】2000~15年までに診療した肺LCH90例のうち、29例(32%)に初発症状として気胸を認めた。18例(62%)が1か月以内に肺LCHと診断されたが、11例(38%)は診断までに4〜120か月かかっていた。【結果】肺LCHの初発症状として気胸があった患者は、気胸がなかった患者に比べ、若年(27.7±7.92歳 vs. 39.9±13.21; p=0.0001)、男性(69% vs. 43%; p=0.028)、喫煙量が少ない(8.4±6.85パック/年vs. 19.0±17.16; p=0.003)、低FVC(77.96±19.62%予測vs. 89.47±21.86; p=0.015)、低FEV1.0%(68.6±19.93 vs. 79.4±21.48; p=0.03)であった。気胸の再発は、診断が遅れた群により多かった(82% vs. 39%; p=0.02)。CT検査は、早期診断群では全例に行われていたが、遅延診断群では行われていた例はなかった。【結論】肺LCHの初発症状として気胸を認めた患者は、気胸のない患者よりも、より若年で、男性が多く、呼吸障害が重度であった。気胸患者のCT検査は、本疾患の正しい診断につながった。

5)「LCH患者における非定型T細胞の変化」

Altered Populations of Unconventional T Cell Lineages in Patients with Langerhans Cell Histiocytosis.

Mitchell J, et al. Sci Rep. 2018 Nov 7;8(1):16506.

LCH病変にはCD1a+ / CD207+骨髄系細胞が存在するが、その他に強力な免疫調節機能を持つ非定型T細胞を含む、多くの免疫細胞が存在する。非定型T細胞には、粘膜関連インバリアントT (MAIT)細胞、I型ナチュラルキラーT (NKT)細胞、およびγδT細胞が含まれ、それらは多くの炎症に関連しているが、LCHにおいける重要性については研究されていない。LCH患者の血液および病変部位における、それらの形質と機能を解析し、MAIT細胞が減少していること、γδT細胞とNKT細胞のサブセットに異常があることを同定した。このような異常は他疾患においては免疫調節異常と関連しており、LCHにおいても潜在的に重要である。本研究は、LCH患者においてMAIT細胞が減少していることを明らかのした最初のものである。MAIT細胞の減少は、γδT細胞とNKT細胞のサブセットの異常とともに、LCHの発症と進行に潜在的に影響を及ぼしている可能性があり、免疫療法の新たな標的となる可能性がある。

6)「臨床的神経変性LCHの発生率と危険因子:縦断的コホート研究」

Incidence and risk factors for clinical neurodegenerative Langerhans cell histiocytosis: a longitudinal cohort study.

Héritier S, et al. Br J Haematol. 2018 Nov;183(4):608-617.

LCHの中枢神経変性(ND)合併症は遅発性であるが、発生率と危険因子が明確になっていない重大な後遺症である。小児LCH患者の全国前方視的登録に基づき、病型と遺伝子変異を考慮し、臨床的ND LCH(cND-LCH)の発症率とリスク因子を分析した。 1897例のLCH患者のうち、36例(1.9%)がcND-LCHと診断された。cND-LCHの10年累積発生率は4.1%であった。cND-LCHは、多臓器型リスク臓器浸潤陰性LCHに多く発症し、cND-LCH例の69.4%を占めた。cND-LCH例では、cND-LCHのない例に比べ、下垂体、皮膚および頭蓋底・眼窩骨病変の頻度が高かった(それぞれ86.1% vs. 12.2%、75.0% vs. 34.2%、63.9% vs. 28.4%, p <0.001)。「cND-LCH危険群」(n = 671)、すなわち下垂体または頭蓋底、眼窩骨病変を伴う小児LCHでは、10年間のcND-LCH発症リスクは7.8%であったが、それ以外の小児LCHでは0%であった。BRAF V600E変異の有無はcND-LCH発症リスクに大きく関連し、BRAF V600E変異陽性では10年間のcND-LCH発症リスクは33.1%、陰性では2.9%であった(p=0.002)。

7)「椎体LCHの臨床像と治療成績」

Clinical features and treatment outcomes of Langerhans cell histiocytosis of the spine.

Xu X, et al, Spine J. 2018 Oct;18(10):1755-1762.

【背景】椎体のLCHは病因不明の比較的まれな疾患である。椎体LCHの診断と治療は未だ定まっていない。【目的】2009年に導入した診断・治療プロトコルの有効性と安全性を評価すること。【研究デザイン】後方視的研究。【患者】1997年10月から2015年11月までに当院で診断および治療された椎体LCH患者110例。【評価項目】患者の年齢、性別、症状、神経機能、病変分布、放射線学的特徴、病理、治療、転帰、および治療の合併症を検討した。疼痛に対する視覚的アナログ尺度(VAS)および神経学的状態に対するフランケル尺度も評価した。【方法】1997年10月から2015年11月までに当院で診断および治療された椎体LCH患者110例を後方視的に検討した。2009年以降、椎体LCHのCTガイド下生検および手術の適応は厳しくなり、孤立性椎体病変の場合、通常、固定と経過観察を第一選択とした。多病変LCHの例に対しては化学療法を選択し、低線量放射線療法は再発した孤発病変のみに行った。この研究は我々の病院の助成を受けた(No. Y71508-01、40万円)。【結果】男性69例と女性41例(年齢範囲:1〜52歳)が対象となった。疼痛が最も高頻度の症状であった(93.6%、103/110例)。病理学的診断は72例(65.5%)に行われた。CTガイド下生検が行われたのは、2009年前後でそれぞれ91.3% (42/46例)と73.2% (41/56例)であった(p=0.02)。98例(89.1%)が平均66.3か月間(範囲24-159)追跡された。固定と経過観察が行われたのは、2009年前後でそれぞれ25.9%(14/54例)と75.0%(42/56例)であった(p<0.001)。手術を受けたのは、2009年前後でそれぞれ35.2%(19/54例)と10.7%(6/56例)であった(p=0.002)。追跡調査期間中、2009年前後の2群間で、転帰に有意差はなかった(p=0.64)。【結論】生検は典型的な椎体LCH病変には必須ではない。椎体LCHの自己治癒傾向を考えると、固定と経過観察は椎体LCHの第一選択治療法である。より控えめな生検および治療プロトコルが椎体LCHに適していると考えられる。

8)「転写因子ZBTB46の発現により、古典的樹状細胞由来のヒト組織球症を鑑別できる」

Expression of the transcription factor ZBTB46 distinguishes human histiocytic disorders of classical dendritic cell origin.

Satpathy AT, et al. Mod Pathol. 2018 Sep;31(9):1479-1486.

古典的樹状細胞と他の骨髄系細胞型の鑑別は、細胞表面マーカーの発現が共通しているため困難である。ZBTB46はジンクフィンガーおよびBTBドメインを含む転写因子で、樹状細胞および樹状細胞前駆細胞に発現しているが、形質細胞様樹状細胞や単球、マクロファージ、他の免疫細胞には発現していない。この研究では、ZBTB46がヒト樹状細胞腫瘍に発現していることを示す。良性および悪性の組織球性疾患においてZBTB46の発現を検討し、ZBTB46の発現によって、これまで明確に分類されていない多くの組織球性疾患の樹状細胞の由来を確定できることを見出した。特に、発現解析を行ったLCHおよび組織球肉腫の全例がZBTB46を発現していたが、芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍、慢性骨髄単球性白血病、若年性黄色肉芽腫、Rosai-Dorfman病、Erdheim-Chester病ではZBTB46を発現していなかった。さらに、未確定細胞性組織球症のような診断が困難な腫瘍群がZBTB46発現により樹状細胞性かどうかの判定が可能となり、この群の一部は樹状細胞性の悪性腫瘍であることが判明した。この結果から、ヒトの組織球性疾患の系統由来を明らかにし、全ての骨髄系腫瘍から樹状細胞性疾患を識別することが可能である。

9)「新規MAP2K1変異に関連した治療抵抗性LCH」

Clinical resistance associated with a novel MAP2K1 mutation in a patient with Langerhans cell histiocytosis.

LCH患者の50%にBRAF V600E変異が、25%にMAP2K1 (MEK1)の活性化変異を認める。治療抵抗性のLCH患者において、RAS-RAF-MEK-ERK経路の遺伝子の変異を解析し、MAP2K1遺伝子に自己活性化すると推定されるp.L98_K104> Q欠失をきたす新規の変異を同定した。MEK阻害剤であるトラメチニブによる治療中を行ったが、病状は著しく進行した。in vitroにおいて、MAP2K1 p.L98_K104> Q欠失は、ERK経路の活性化および薬剤耐性をもたらすことを確認した。

10)「Erdheim⁻Chester病における間質性肺病変の臨床的および病理組織学的特徴」

Clinical and Histopathologic Features of Interstitial Lung Disease in Erdheim⁻Chester Disease.

Haroutunian SG, et al. J Clin Med. 2018 Aug 28;7(9). pii: E243.

多臓器疾患である稀な非LCHのErdheim⁻Chester病(ECD)における間質性肺病変に関してはよくわかっていない。生検で確認された62例のECD患者を、CT所見に基づいて、間質性肺病変なし(19.5%)、極軽度(32%)、軽度(29%)、および中等度/重度(19.5%)に分けた。間質性肺病変が軽度または中等度/重度の患者の少なくとも半数に呼吸困難を認めた。間質性肺病変が極軽度のECD患者では拡散能が有意に低下していた。疾患の重症度は肺機能検査値と逆相関していたが、BRAF V600E変異との相関は見られなかった。主なCT所見は、網状およびすりガラス状変化であった。中等度/重度の間質性肺病変群のCTスコアは、他の群と比較し有意に高かった。肺生検の免疫染色はECDの所見に一致していた。病理組織学的所見として、散在する正常の肺組織領域、びまん性の間質の線維化、線維化領域の泡沫状細胞質を有する組織球、リンパ球の集簇、巣状のII型肺胞細胞過形成を伴う胸膜下および中隔の線維化がみられた。結論として、大部分のECD患者においてさまざまな重症度の間質性肺病変を認める。ECDにおける間質性肺病変の病理組織学的特徴は、特発性間質性肺病変でみられる間質性線維症パターンに類似している。