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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第36回 最新学術情報

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「Rosai-Dorfman病における相互排他的な再現性のあるKRASおよびMAP2K1変異」

Mutually exclusive recurrent KRAS and MAP2K1 mutations in Rosai-Dorfman disease.

Garces S, et al. Mod Pathol. 2017 Oct;30(10):1367-1377.

Rosai-Dorfman病(RDD)は病態が十分解明されていない組織球症である。最近の研究により、LCHおよびErdheim-Chester病においてMAPK/ERK経路の遺伝子の変異が再現性をもって示されている。しかし、RDDについてはほとんど検討されていない。21例のRDD(女性13例・男性8例、年齢中央値43歳(範囲3-82歳))を対象に、次世代シークエンサーで解析した。13例はリンパ節外、5例はリンパ節内、3例は節外と節内の両者に病変がみられた。最も多い病変部位は頭頸部(7例)であった。変異解析では、7例(33%)に点突然変異を検出し、KRASが4例、MAP2K1が3例であった。ARAFBRAFPIK3CAおよび調べた他の遺伝子には変異は同定されなかった。MAP2K1変異のある3例で、免疫組織化学染色によりERKのリン酸化が証明された。遺伝子変異のあった例は、より若年で(年齢中央値、10歳 vs. 53歳, p=0.0347)、小児患者がより多かった(変異陽性7例中4例 vs. 変異陰性14例中1例, p=0.0251)。遺伝子変異は頭頸部領域に病変のある例に多かった(変異陽性7例中6例(86%) vs. 変異陰性14例中1例(7%), p=0.0009)。病期の情報のある変異陽性5例の全てが多病変型であったのに対し、変異陰性では11例中3例(27%)のみが多病変型であった(p=0.0256)。治療内容については10例で情報が得られ、根治的切除が4例、切除および放射線療法が3例、クラドリビンを中心とした化学療法が3例であった。追跡期間の中央値84か月(範囲7-352)で、7例は臨床的寛解を維持し、3例には活動性病変が持続していた。変異の有無と臨床転帰との間には関連を認めなかった。要約すると、RDDの1/3に相互排他的なKRASMAP2K1の変異を認め、これらの例はクローン性であり、MAPK/ERK経路の活性化がある。このデータは、RDDのバイオロジーの理解に役立ち、診断および治療の標的となる可能性を示している。

2)「成人LCH病変の遺伝的均質性:成人患者におけるBRAF V600E変異の洞察」

Genetic homogeneity of adult Langerhans cell histiocytosis lesions: Insights from BRAF V600E mutations in adult populations.

Selway JL, et al. Oncol Lett. 2017 Oct;14(4):4449-4454.

LCHは、成人と小児の間で発生率・病変部位・予後に大きな違いのある、不均一な疾患である。最近、LCHでBRAF V600E変異が同定されたことから、単独病変型または多病変型の成人および小児患者において、BRAF V600E変異の頻度を検討した。この研究では、成人LCH患者のコホートにおいてDNA配列決定によるBRAF V600E変異の有無を分析するとともに、疾患部位および重症度との関連性を調べるため、LCHにおけるBRAF V600E変異の幅広いメタ解析を行った。文献検索の結果では、V600E変異の頻度は、成人患者(年齢> 18歳)では47%病変であったのに対し、18歳未満の患者では53%であった。多病変型と単独病変型を比較すると、前者でわずかに高頻度だった(61% vs. 51%)。高リスク臓器と低リスク臓器を比較すると、より大きな差を認めた。例えば、肝(高リスク臓器)生検の検体では75%が変異陽性に対し、肺生検の検体では47%と報告されていた。DNA配列解析により、成人LCH患者の29例のうち38%が変異陽性であることが確認され、これはメタ解析から得られた数値(病型は不明であるが計132例の解析)よりもわずかに低かった。したがって、診断時のV600E変異の有無だけで臨床経過を予測できるものではないが、かなりの割合のLCHはV600Eを標的とした治療が有効である可能性がある。

3)「小児LCHの長期経過の転帰」

Late outcomes in children with Langerhans cell histiocytosis.

Chow TW, et al. Arch Dis Child. 2017 Sep;102(9):830-835.

【はじめに】LCHは、多様な臨床経過をたどるまれな疾患である。ここ数十年で生存率は改善したが、この疾患の晩期合併症は依然として深刻である。この研究は、LCH患者の長期経過の転帰、特に晩期合併症に関連する要因を明らかにすることを目的とする。【方法】LCHと診断され当院で経過をみられている患者のカルテ記録を後方視的に検討した。疾患の経過、死亡率、治療、晩期合併症の種類と出現時期についてデータを収集し分析した。【結果】本研究には70例の患者が含まれ、平均観察期間は12年(中央値10.7年、範囲1〜31.3年)であった。 LCHに関連する晩期合併症は56%(39例)にみられ、多臓器型および再発患者により多かった。整形外科的障害を27%、腎不全を19%、成長障害を13%、美容上の問題を10%、神経学的障害を7%、聴神経障害を7%、下垂体前葉ホルモン欠乏を7%、肝胆道系障害を4%、眼科的障害を3%に認めた。神経学的後遺症は、LCHと診断されてから10年後でも出現する可能性がある。再発、中枢神経系リスク病変および放射線治療が、晩期合併症の頻度と関連していた。再発の累積発生率は34%であった。ほとんどの再発は、LCHの診断後の2.5年以内に発生していた。【結論】晩期合併症は軽微なものもあったが、高頻度で認めた。神経学的後遺症は、特に重症となり衰弱する可能性がある。患者の転帰をよりよくするために、細心の注意を払った長期フォローアップが不可欠である。 LCHのCNS病変の予防および治療に関するさらなる研究が望まれる。

4)「小児LCHの血清中炎症性サイトカインおよびケモカインは高値で、病期に関連する」

Inflammatory serum cytokines and chemokines increase associated with the disease extent in pediatric Langerhans cell histiocytosis.

Morimoto A, et al. Cytokine. 2017 Sep;97:73-79.

【目的】LCHは、未成熟樹状細胞の増殖、種々の炎症細胞のLCH病変への浸潤、病変部位でのサイトカインストームが特徴的である。LCHは病期によって、リスク臓器浸潤を伴う多臓器型(MS+)、リスク臓器浸潤を伴わない多臓器型(MS-)、単一臓器型(SS)の3群に分類される。血清中サイトカイン/ケモカイン濃度が病期を反映するかどうかを網羅的に解析した。【方法】52例のLCH(MS+ 8例、MS- 25例、SS 19例)および34人の対照小児において、48種の体液性因子の血清中濃度を測定した。 12例のLCH病変部生検組織から抽出したDNA検体でBRAF V600Eの有無について検査した。【結果】LCH患者は対照に比べ、単変量解析により、IL-1Ra, IL-3, IL-6, IL-8, IL-9, IL-10, IL12, IL-13, IL-15, IL-17, IL-18, TNF-α, G-CSF, M-CSF, MIF, HGF, VEGF, CCL2, CCL3, CCL7, CXCL1およびCXCL9の血清中濃度が高かった。これらのうち、IL-9, IL-15およびMIFが多変量解析でも有意であったが、MS群とSS群では差がなかった。MS群ではSS群に比べ、単変量解析により、L-2R, IL-3, IL-8, IL-18, M-CSF, HGF, CCL2, CXCL1およびCXCL9が高値であった。これらのうち、CCL2およびM-CSFは多変量解析でも有意であった。 MS+群ではMS-群に比べIL-18が有意に高かった。BRAF V600E変異のあるLCH患者では、CCL7が有意に高かった。【結論】多数の炎症性サイトカインおよびケモカインがLCHに関連している。これらのいくつかは、病期(MS vs, SSおよびMS+ vs. MS-)やBRAF V600E変異の有無を反映する。予後不良に関連する最も重要なサイトカインおよびケモカインは、将来、LCHに対する治療標的の候補となると考えられる。

5)「日本における19例のLCHでのBRAF V600E変異の解析」

Analysis of the BRAFV600E mutation in 19 cases of Langerhans cell histiocytosis in Japan.

Sasaki Y, et al. Hematol Oncol. 2017 Sep;35(3):329-334.

LCHは、CD1aおよびCD207(ランゲリン)陽性の樹状細胞のクローン性増殖を特徴とする稀な疾患である。変異BRAF(p.V600E)は、LCHを含む組織球症および樹状細胞関連疾患において認められる。 BRAF V600Eは、かなりのLCH症例で認められ、MAPK活性化の維持に関与すると考えられている。LCHと診断された19例のBRAF V600E変異を後方視的に分析した。この研究では、変異のホットスポットであるエクソン15の直接塩基配列決定を行い、19例中4例(21%)にBRAF V600EをコードするGTG> GAG(バリン>グルタミン酸)塩基置換があることを示した。この疾患におけるBRAF V600Eの臨床的意義は不明である。日本のLCH患者におけるBRAF V600Eの頻度は、米国およびドイツで報告された頻度よりも低かった。しかし、アジアからの報告は、BRAF V600E変異率は低い傾向がある。これらの結果は、様々な民族間でLCHの病因に異なる遺伝的背景がある可能性を示唆している。また、変異特異的モノクローナル抗体を用い、BRAF V600E変異を検出する免疫組織化学分析を行った。しかしながら、免疫組織化学的分析では、4例のBRAF V600E陽性症例のいずれにおいても変異タンパク質を検出することができなかった。このことから、現時点では、BRAF V600E変異は直接塩基配列決定によって評価されるべきである。

6)「小児の脊椎LCHの長期臨床転帰」

Long-term clinical outcome of spinal Langerhans cell histiocytosis in children.

Lee SW, et al. Int J Hematol. 2017 Sep;106(3):441-449.

LCHの脊椎浸潤により病的な状態に陥るが、その転帰は十分にわかっていない。単一施設での統一した治療後の長期的な転帰を分析した。脊椎LCH患者の臨床的特徴および転帰を後方視的に分析した。椎体高さ比は、MRI画像での、浸潤椎体と予想される正常椎体の椎体前方の高さから算出した。LCHと診断された98例のうち22例(22.4%)に脊椎病変を認めた。診断時の年齢中央値は4.1歳(0.6〜12.3歳)であった。22例に31脊椎病変を認め、胸椎病変(17例)が最も多かった。8病変では扁平化は極軽度で、単純X線撮影では正常であったが、MRIでは検出された。全て例がビンブラスチンを主とした化学療法を受けた。評価可能な扁平椎体20病変のうち、重度であった8病変を含む14病変(70%)に、追跡期間の中央値6.0年(範囲2.8〜12.0)で椎体高の改善を認めた。追跡可能であった全ての患者は活動性病変なく生存していた。長期経過観察により、扁平化した脊椎LCHの約70%に椎体高の改善が見られた。診断時のMRI検査によって、単純X線に比べ、より早期に高感度で脊椎病変の検出が可能であった。

7)「側頭骨LCHの合併症としての真珠腫: 全国横断的分析」

Cholesteatoma as a complication of Langerhans Cell Histiocytosis of the temporal bone: A nationwide cross-sectional analysis.

Simmonds JC, et al. Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 2017 Sep;100:66-70

【目的】側頭骨LCH患者が真珠腫の発症リスクが高いかどうかを検討する。【方法】2000年~13年までのNational Inpatient Sample(NIS)およびKids' Inpatient Database(KID)から、LCHと診断された19歳未満の患者について分析した。ICD-9コードおよび人口統計を分析し、ペアワイズ比較および多変量解析を行った。【結果】側頭骨LCHの治療後に発症した真珠腫は7例のみであった。真珠腫とLCHとの間に有意な関連は見られなかった(OR 0.747 [0.149-3.751])。LCH患者には、慢性中耳炎、外慢性耳炎、慢性副鼻腔炎、難聴、滲出性中耳炎の発生率が高かった。【結論】この結果から、LCH患者は、真珠腫発症の高リスクではないことが示唆される。しかし、LCH患者は、真珠腫やLCH再発と鑑別すべき慢性外耳炎の発症率が高い可能性がある。

8)「成人の非LCH組織球症では骨髄性腫瘍の有病率が高い」

High prevalence of myeloid neoplasms in adults with non-Langerhans cell histiocytosis.

Papo M, et al. Blood. 2017 Aug 24;130(8):1007-1013.

Erdheim-Chester病(ECD)は、成人によく見られ、BRAFMAP2K1およびMAPKシグナル伝達系を活性化するキナーゼ遺伝子の変異によって引き起こされることが多い、希な非LCH組織球症である。ECDは希な疾患であるため、重要な臨床的特徴は十分に解明されていない。 ECDおよびECD/LCH重複(いわゆる混合組織球症[MH])の189例の多施設共同研究コホートにおいて、今までに報告のない予期せぬ高頻度で、骨髄性腫瘍を合併することを見出した。ECD患者の約10.1%(19/189)に骨髄性腫瘍が合併し、骨髄増殖性腫瘍(MPN)、骨髄異形成症候群(MDS)、MDS/MPN重複症候群(慢性骨髄単球性白血病を含む)が多かった。これと一致して、骨髄性腫瘍を顕著に特徴づける発がん関連遺伝子変異(JAK2 V617FやCALR変異など)が、組織球症を特徴づける遺伝子変異(BRAF V600EやMAP2K1変異など)と共存して頻繁に検出された。骨髄性腫瘍を伴っていた患者は、骨髄性腫瘍がない患者に比べて、有意に診断時年齢が高齢で、MHの割合が高かった。組織球症および骨髄性腫瘍で異なるキナーゼ変異が存在することから、キナーゼ標的療法に対して異なる反応性や、有害な反応を示す例が何例かあった。これらのことから、成人の組織球症患者では、骨髄性腫瘍が併存しないかを評価することが臨床的に重要である。

9)「小児LCHのバイオマーカーとしての血漿中BRAF V600E」

Circulating cell-free BRAFV600E as a biomarker in children with Langerhans cell histiocytosis.

Héritier S, et al. Br J Haematol. 2017 Aug;178(3): 457-467.

BRAF V600E変異は、LCH患者の半数に認められる。小児LCHコホートにおいて血漿DNA中BRAF V600E変異検出を試みた。 BRAF V600E変異陽性の小児LCHにおいて、ddPCRアッセイを用い、診断時(48例)および治療開始後(17例)に血漿DNA中にBRAF V600E変異が検出されるかを調べた。診断時、血漿DNA中で、リスク臓器陽性多臓器型(RO+MS)LCH患者の15/15(100%)、リスク臓器陰性多臓器型(RO-MS)LCH患者の5/12(42%)、および単一臓器型(SS)LCH患者の3/21(14%)にBRAF V600E変異が検出された(p ‹ 0.001, フィッシャーの正確検定)。BRAF V600E変異コピー量は、RO-MS(平均0.16%、範囲0.01-0.39)よりRO+MS(平均2.9%、範囲0,04-11,4%)で多かった(p=0.003, マンホイットニーU検定)。初回ビンブラスチン/ステロイド寛解導入療法後、不応例では7/7(100%)で血漿DNA中のBRAF V600E変異が陽性のままであったのに対し、部分反応例では2/4(50%)、完全反応例では0/4で陽性であった(p=0.002, フィッシャーの正確検定)。vemurafenibで治療された6例の小児は治療に反応し、15日目の血漿DNA中BRAFV 600E変異コピー量は治療反応に相関して減少した。したがって、血漿DNA中BRAF V600E変異は、小児LCHのRO+MSや初期化学療法に抵抗性RO-MSの治療反応性をモニターする有望なバイオマーカーである。

10)「小児組織球症の病変評価におけるPET/MRとPET/CTとの比較」

PET/MR in the Assessment of Pediatric Histiocytoses: A Comparison to PET/CT.

Sher AC, et al. Clin Nucl Med. 2017 Aug;42(8):582-588.

【目的】小児組織球症患者において、F-FDG PET/MRの実施可能性と診断精度を、画質・病変検出・FDG定量化の観点から、F-FDG PET/CTと比較して分析することを目的とする。【方法】LCHまたはRosai Dorfman病(RDD)と診断された小児例を前向きに登録した。9例の患者(平均年齢、6.2歳)において、PET/CT検査およびPET/MR検査を、単回注射で両者撮影する方法で17回行った。LCHに対して10回、RDDに対して7回検査を行った。データは匿名化し、画質および病変検出の評価を行った。各病変のSUV定量値を2つの撮影法で比較した。【結果】全てのPET/MR検査で、画質は良好または優秀と評価され、臨床的に許容と判断された。PETの画質についてはPET/MR画像の読影者間でほぼ一致した。活動性病変ありと判定された患者は、PET/MRとPET/CTで全く一致した。PET/CTで活動性病変と評価された77病変のうち74病変(96%)はPET / MRIで正しく同定できた。病変ごとのPET/MRとPET/MRの最大SUVは、スピアマン相関係数0.73(p ‹ 0.001)で強く相関していた。【結論】小児の組織球症患者でのPET/MR検査は臨床的に適している。PET/MRは、PET/CTに匹敵する画質と病変検出力があり、定量性にも高い相関がある。放射線被曝量が大幅に低減されることを考えると、PET/MRは、小児の組織球症患者の臨床においてPET/CTに代わる魅力的な検査法である。