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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

JLSG-96/02 LTFU観察研究

1) 研究の背景・目的・意義

1996年からのJLSG-96試験、2002年からのJLSG-02試験により小児の多臓器型、多発骨型LCHの生命予後は著しく改善した。しかし、中枢性尿崩症や中枢神経変性症に代表される続発症が、LCHの診断後数年を経てから発症することがしばしばあり、再発例では特に多くみられ、それによって、患者のQOLは著しく低下する。これらの続発症の頻度は、LCH発症後、経時的に増加すると言われているが、横断的研究のみで長期に経時的に経過を追った研究はなく、実態は明らかではない。

LCH発症後、数年以上経過した症例を経時的に観察し、続発症の発症頻度と経過、リスク因子を明らかにすることを目的とする。

これらが明らかになれば、今後の治療向上につながる。

2) 研究の方法

JLSG-96/02試験に登録され治療を受けた小児の多臓器型および多発骨型LCH症例を対象とする。

毎年1回、調査票により、生死、再発および続発症の状況について既存のデータを収集する。

3) 研究機関の名称及び研究責任者の氏名

  • 研究機関:日本LCH研究会(理事長:森本哲)
  • 研究責任者:森本哲(自治医科大学小児科・昭和伊南総合病院小児科)
  • 研究事務局: 日本LCH研究会(京都府立医科大学小児科内)

4) これまでの研究成果

長期の経過観察で様々なことが分かってきた。特に、中枢神経変性症を代表とする中枢神経関連の続発症の重大性が明らかとなった。LCHと診断されてから10年以上経過して中枢神経変性症を発症する例も多いことから、経過観察を打ち切らないことが極めて重要であることが分かった。

以下に、これまでの発表論文を要約する。

  1. Imashuku S, Shioda Y, Kobayashi R, Hosoi G, Fujino H, Seto S, Wakita H, Oka A, Okazaki N, Fujita N, Minato T, Koike K, Tsunematsu Y, Morimoto A; Japan LCH Study Group (JLSG). Neurodegenerative central nervous system disease as late sequelae of Langerhans cell histiocytosis. Report from the Japan LCH Study Group. Haematologica. 2008; 93: 615-618.

    11例の中枢神経変性LCH患者の臨床所見・脳MRI所見・EDSSスコアの解析。全例が多臓器型LCHで、LCH発症年齢は8例が1-2歳、3例は2歳以上であった。LCH診断から中枢神経変性LCH発症までの中央値3.9年であった。観察期間の中央値4.5年で、6例はEDSSスコア3を超えて進行した。幼児期早期に発症した多臓器型LCHの経過観察において、MRIによる中枢神経変性LCHの早期診断が重要である。

  2. Imashuku S, Kinugawa N, Matsuzaki A, Kitoh T, Ohki K, Shioda Y, Tsunematsu Y, Imamura T, Morimoto A; Japan LCH Study Group. Langerhans cell histiocytosis with multifocal bone lesions: comparative clinical features between single and multi-systems. Int J Hematol. 2009; 90: 506-512.

    JLSG-02研究に登録された、骨のみの多発病変(SMFB)67例と骨病変を伴う多臓器型(MSB)97例を比較し、骨浸潤の様式と転帰に違いがあるかを解析した。初発年齢はSMFBで有意に高かった(p<0.001)が、症例あたりの骨病変の数は両病型で差はなかった。両病型ともに、頭蓋骨病変が最も多く、次いで椎体骨病変であった。側頭骨病変(p=0.002)、耳錐体骨(p<0.001)、眼窩病変(p=0.003)、頬骨病変(p=0.016)は有意にMSBに多かった。治療反応性は両病型の間で差はなかったが、尿崩症の発症率はMSBに有意に高かった(p<0.001)。

  3. Shioda Y, Adachi S, Imashuku S, Kudo K, Imamura T, Morimoto A. Analysis of 43 cases of Langerhans cell histiocytosis (LCH)-induced central diabetes insipidus registered in the JLSG-96 and JLSG-02 studies in Japan. Int J Hematol. 2011; 94: 545-551.

    JLSG-96-02プロトコールで治療された348例の多病変型小児LCH患者のコホート中で中枢性尿崩症(CDI)を合併した43例(CDI合併率12.4%)を分析した。24例(6.9%)はLCHの診断時点で既にCDIが存在し、19例(5.5%)は治療開始後に続発していた。Kaplan-Meier分析による治療開始後のCDIの発生率は5年時点で7.4%であった。2例でCDIの完全消失がみられた。下垂体前葉ホルモン欠乏を13例に認め、CDIに関連する神経変性疾患が6例にみられた。JLSG-96/-02プロトコールは、CDIの発生を低下させる効果があると思われる。

  4. Imashuku S, Fujita N, Shioda Y, Noma H, Seto S, Minato T, Sakashita K, Ito N, Kobayashi R, Morimoto A; Japan LCH Study Group (JLSG). Follow-up of pediatric patients treated by IVIG for Langerhans cell histiocytosis (LCH)-related neurodegenerative CNS disease. Int J Hematol. 2015; 101: 191-197.

    LCH関連の中枢神経変性症(ND-CNS)に対し、免疫グロブリン静注(IVIG)を3年間以上受けた8例の日本の小児患者の追跡調査の報告。ND-CNS発症時の年齢は中央値5.2歳(3.5~10.0歳)、IVIG治療の期間は中央値6.5年(3.7~10年)であった。ND-CNS診断後の観察期間、中央値11.6年(8.3~13.9年)の時点で、Expanded Disability Status Scale (EDSS) スコアの中央値は4.0点(2.0~9.5点)であった。最終観察時点において、3例はEDSSスコア3以下で介助なく歩行が可能、3例はEDSSスコア3.5~4.5でときおり介助を必要としたが自力歩行可能、残りの2例は車椅子またはベッド上生活であった。学校成績は8例中7例で平均以下であった。IVIG治療は、ND-CNS診断直後でEDSSスコアが1.0~2.5と低い時点で開始された例で最も効果が高く、EDSSスコアが高い時点(4.5~7.0)でIVIG治療を開始された例では効果は低いと考えられた。LCH患者のND-CNSの進行を防ぐために、IVIG治療を早期に開始し3年以上継続することが薦められる。

  5. Sakamoto K, Morimoto A, Shioda Y, Imamura T, Imashuku S; Japan LCH Study Group (JLSG). Central diabetes insipidus in pediatric patients with Langerhans cell histiocytosis: Results from the JLSG-96/02 studies. Pediatr Blood Cancer. 2019; 66: e27454.

    Ara-C basedの多剤併用化学療法を用いる日本LCH研究グループ(JLSG)レジメンで治療された小児LCH患者317例(多臓器[MS]型206例、多発骨[MFB]型111例)における中枢性尿崩症(CDI)の解析。追跡期間の中央値10.6年(範囲、0.1-21.1)で、計50/317例(15.8%)がCDIを発症していた(MS型46例、MFB型4例)。25例はLCH診断時に既に存在し(pre-CDI)、25例は診断後や治療開始後に新たに発症していた(post-CDI)。Kaplan-Meier分析による10年時点の後CDIの累積発生率は、全体で9.0%、MS型で12.0%であった。診断時のCNSリスク部位のLCH病変は、pre-CDIと関連していた(17/164 vs. 8/171; p=0.0359)が、post-CDIとは関連していなかった(14/129 vs. 11/163; p=0.254)。多変量解析では、CNSリスク部位への再発がpost-CDI発症と有意に関連していた(ハザード比: 4.70; 95%CI 1.29-17.1, p⟨0.05)。

  6. Sakamoto K, Morimoto A, Shioda Y, Imamura T, Imashuku S; Japan LCH Study Group (JLSG). Long-term complications in uniformly treated paediatric Langerhans histiocytosis patients disclosed by 12 years of follow-up of the JLSG-96/02 studies. Br J Haematol. 2021; 192: 615-620.

    AraCを含むJLSG-96/02レジメンで治療された小児患者(317例)におけるLCH関連の永続的続発症(PCs)の頻度の報告。追跡期間の中央値12年で、LCH患者の1/3は、少なくとも1つのPCsを持っていた。21.5%に中枢神経系(CNS)関連のPCs(神経学的や内分泌学的)を、16.7%に非CNS関連のPCsを認めた。

  7. Morimoto A, Shioda Y, Sakamoto K, Imamura T, Imashuku S; Japan LCH Study Group. Bone lesions of Langerhans cell histiocytosis triggered by trauma in children. Pediatr Int. 2022; 64: e15199.

    JLSG-02研究コホートにおいて、LCHの診断時に骨病変を外傷部位に発症していた小児患者の後方視的に分析。261例の小児LCH患者のうち12例(4.6%)に、診断時に外傷によって引き起こされた骨LCH病変を認め、年齢の中央値は4.9歳で、それ以外の患者よりも有意に高齢であった(P=0.006)。外傷部位は、10例が頭蓋顔面領域、1例が腰椎、1例は骨盤であった。外傷時に、6例はその部位に瘤を認めたが、硬膜外血腫や骨折を呈した例はなかった。外傷から発症までの期間は中央値4週間であった。これらの12例のうち、3例は孤発骨病変、4例は外傷部位の病変を含む多発骨病変、5例は多臓器病変(4例は隣接組織の病変、1例は外傷誘発性の骨病変発症の1年以上前からの多尿症[下垂体後葉病変])であった。治療反応は12例全例で良好で死亡例はなかったが、2例が再発(1例は孤発骨病変、1例は多発骨病変)した。

  8. Sakamoto K, Morimoto A, Shioda Y, Imamura T, Imashuku S; Japan LCH Study Group (JLSG). Relapses of multisystem/multifocal bone Langerhans cell histiocytosis in paediatric patients: Data analysis from the JLSG-96/02 study. Br J Haematol. 2023; 200: 769-775.

    JLSG-96/02プロトコールによって治療を受けた小児LCH患者の再発パターンの評価。JLSG-96/02研究に登録された計317例のうち、再発した101例(LCH診断時に多発骨[MFB]型31例、多臓器[MS]型70例)における187回の再発を分析した。LCHの再発は、活動性病変消失状態(NAD)後の増悪と定義した。317例のうち、101例(31.9%)が治療開始後1.5年後に最初の再発をきたした。最初の再発とその後の再発は、MFB型とMS型で差異はなかった。187回の再発のうち、159回(85%)は単一臓器型として再発し、孤発骨再発(104回、55%)が最も多かった。リスク臓器浸潤陽性MS型として再発する例は非常にまれであった。再発後、ほとんどの例が化学療法を受け(122/187; 65%)、そのうちの87%が再びNADに達した。不可逆的続発症の発生率は、再発のない例よりも再発した例の方が有意に高かった。