1)LCHにおけるアポトーシス関連蛋白(FADD・FLICE・FLIP)の免疫組織化学による発現解析
Immunohistochemical detection of the apoptosis-related
proteins FADD, FLICE, and FLIP in Langerhans cell histiocytosis.
Bank MI et al. J Pediatr Hematol Oncol. 27(6):301-306,
2005. |
LCHはさまざまな臓器に肉芽腫病変を形成し樹状ランゲルハンス細胞が集積する疾患である。LCHの原因は未だ謎である。Fas/APO-1/CD95はアポトーシスを制御する細胞死受容体ファミリーに属し、免疫反応の抑制的制御に関係している。筆者らは、LCHの患者の病変部位におけるFasシグナル経路に関連する3種の蛋白、すなわちFADD(Fas-associated
death domain-containing protein)とFLICE(FADD-like interleukin-1beta-converting
enzyme)(両者はアポトーシス促進蛋白)、FLIP(FLICE-inhibitory protein)(抗アポトーシス蛋白)の発現を検索した。43例の小児LCH患者のパラフィン包埋標本で免疫組織染色を行った。これらの蛋白が陽性である病的LCH細胞の数により発現をスコア化した。検索したすべての標本において、大部分の病的LCH細胞はFADDとactive
FLICE、FLIPを発現していた。臨床転帰とこれらの蛋白発現には関連はなかった。この研究は、アポトーシス関連蛋白であるFADDとactive
FLICE、FLIPが病的LCH細胞において高発現であることを示している。筆者らは、以前に病的LCH細胞はFasとFasリガンドを発現していることを示した。これらのことを考え合わせると、今回の結果は、Fas信号経路のLCHの病因に対する関与を示唆しているのかもしれない。 |
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2)RNA増幅とマイクロアレイの組み合わせによるヒト組織を用いた発現プロファイリング:LCHの評価
Expression profiling using human tissues in combination
with RNA amplification and microarray analysis: assessment
of Langerhans cell histiocytosis.
McClain KL et al. Amino Acids. 28(3):279-290, 2005.
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分子遺伝学の進歩によってヒトゲノムの配列検索がなされ、身体の全てにわたる多様な組織の蛋白発現データが利用可能となり、発生や分化、恒常性、究極的には疾患の原因といった重大な概念を検証する画期的な仮説を立てることが可能となってきた。現在、遺伝子発現を評価する最もよい方法は、細胞が生きた状態で生理的に、あるいは、in
vitroまたはin vivoで細胞を固定し免疫組織化学または細胞組織化学的方法によって、単一細胞を評価する方法である。しかしながら、標準的なRNA抽出法では単一細胞から十分な量のRNAは得ることはできない。そこで、指数関数的PCRに基づいた解析と、アンチセンスRNA増幅法や新たに開発されたterminal
continuation RNA増幅法のような線状RNA増幅法を、レーザーコンピューターマイクロダイセクション法などと組み合わすことによって、LCHのような生検検体だけでなく死後の脳の検体といった様々なヒト組織から得られた個々の細胞において、マイクロアレイ法による発現プロファイリングや下流遺伝子の解析が可能になってきた。
正常ランゲルハンス細胞と病的LCH細胞におけるサイトカインの発現を比較したデータはほとんどなく、低リスクと高リスクLCHでの相違についてのデータはない。そこで、マイクロアレイ法により正常組織とLCH組織からマイクロダイセクションにより取り出したランゲルハンス細胞のサイトカインプロファイル、骨、肝臓、脾臓のLCH病変のサイトカインプロファイルを比較した。驚くべきことに、正常ランゲルハンス細胞と病的LCH細胞は同じような遺伝子発現を示した。すなわち、両者ともM-CSF、TGFβ-R、IL-1αの3遺伝子は最も強く発現しており、ほとんどのサイトカイン遺伝子は発現に差はなかった。一方、組織におけるサイトカイン遺伝子の発現パターンには差が見られ、高リスク患者の肝や脾病変においてはIL-13、NFκB、TNFRp55、RANKL、TGFβRの発現が有意に高かった。このことより、LCHの病態生理には、LCH細胞ではなく浸潤しているリンパ球や単球、好酸球が重要な役割を果たしていると考えられる。 |
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