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平成17年2月19日、リーガロイヤルホテル大阪において第20回LCH研究会が開催されました。
JLSG-96/02の成績とLCH患者会結成の報告があり、その後8題の一般演題の発表がありました。
LCHに伴う変性性中枢神経病変について注目が集まりました。

▼LCH研究会レポート

<1>臨床研究と報告

1 JLSG-96の追跡結果 済生会京都府病院小児科 生嶋 聡
1996年6月から2001年12月にJLSG-96臨床研究に登録された新規症例94例(SM型37例、 MM型57例)の治療成績が報告された。
5年の時点での無病生存率は、SM型で70%、MM型で34.5%粗生存率はSM型で100%、MM型で94%であった。合併症・晩期障害として、SM型で尿崩症を2例(5.4%)、変性性中枢病変を2例(5.4%)に認めた。MM型では尿崩症を7例(12.2%)、変性性中枢病変を2例(3.5%)、失明を1例、汎下垂体機能不全を1例、肺嚢胞を1例に認めた。

2 JLSG-02の中間報告 京都府立医大小児科 森本 哲

2002年1月より登録が開始されたJLSG-02臨床研究の中間成績について報告された。
登録数は3年間で100例を超え、寛解導入療法が終了した85例(SM型37例・MM型48例)が評価可能であった。2年の時点でのNon progressive survival(非再発・非進行生存)は、SM型・MM型ともに約70%、粗生存率はSM型・MM型ともに90%以上であった。4例の死亡例が報告された。いずれも1歳未満の発症でMM型が3例、SM型が1例であった。これらの例の寛解導入Aに対する反応は、2例が病勢進行、1例が部分寛解(後に再発)、1例が寛解(寛解中に原因不明の呼吸不全)であった。観察期間は短いが、JLSG-96に比べMM型において治療成績の向上を期待させる結果である。

3 LCH患者と家族の会について 成育医療センター小児腫瘍科 恒松由記子
2004年10月にLCH患者会が結成され、代表に天野美知子氏が選出されことが報告された。
米国の患者会は、疾患の病態を解明し治療成績を向上させることを目的としており、研究費のために寄付集めが大きな活動となっている。日本の患者会の場合、疾患についての情報を得ることと家族の支え合いが最も大きな目的となっている。今後患者会がどのような方向で活動をしていくのか、LCH研究会との関係をどう発展させていくのか見守っていきたい。


<2>症例検討


1 初診時に小脳病変を伴ったLCHの1例
佐世保市立総合病院小児科 天本なぎさ 他

初診時の頭部MRIで小脳病変が見つかり、JLSG-02の維持療法Cとγグロブリンで治療中のLCH例が報告された。
《コメント》LCHに伴う小脳を中心とした変性性中枢神経病変が最近注目されているが、今までの報告ではLCH発症後2-3年以降に見つかることが多く、本例はその意味では特異な例である。 本例は変性性中枢神経病変の発症早期から治療が開始されていると考えられ、免疫抑制療法として6-MP、γグロブリン療法が効果を示すか、今後の経過が注目される。

2 経過中に大脳基底核病変を認めたLCHの1例
広島赤十字・原爆病院小児科 藤田直人 他
JLSG-96で治療し寛解に至った尿崩症を伴うMM型のLCHで、発症4年後の頭部MRIで大脳基底核に変性病変が出現した例が報告された。
《コメント》LCHの変性性中枢神経系病変の本態はいまだ明らかではない。頭蓋病変を伴う例に出現しやすいといわれており、このような例では頭部MRIを定期的に検査し、早期発見に努め、 病態を明らかにする必要がある。

3 HLA一座不一致同胞からミニ移植を行った難治性LCHの1例
長野県立こども病院血液・腫瘍科 岡田まゆみ 他

JLSG-02の寛解導入療法・VP16や2-CdAに不応性のLCH例に対し、HLA1座不一致同胞からFlu(25mg/m2x5days)/L-PAM(70mg/m2x2days)/TBI(3Gy)の前処置で移植が成功した例が報告された。
《コメント》難治・不応性LCHに対してミニ移植が有効であったことは、LCHに対しGVT効果があることを示し、勇気づけられる報告である。

4 γグロブリン大量静注療法単剤療法が皮膚病変ならびに一般状態改善に著効を
奏した難治性LCHの3歳女児例
国立成育医療センター小児腫瘍科 塩田曜子 他
γグロブリン大量療法で皮膚病変と一般状態が改善した難治性のLCH例が報告された。
《コメント》リンパ球マーカーやサイトカインなどの免疫学的検査は行われておらず、γグロブリンがLCHに直接効果を示したのかどうかは不明である。今後、免疫学的検査も合わせ行い、γグロブリンのLCHに対する治療効果を追試していく必要がある。

5 寛解導入療法に対する効果判定に苦慮したLCHの幼児例
金沢医科大学小児科 岡田直樹 他

骨病変の治療効果判定に苦慮したLCH例が報告された。
《コメント》骨病変はレントゲン像の改善に時間を要し判定に苦慮することがある。破骨細胞活性の指標として血清中RANKL/OPG比が骨病変のマーカーとして使えるか京都府立医大の石井らにより検討中である。

6 骨髄細胞で8トリソミーがみられたself-healing histiocytosisの再発乳児例
大阪市立総合医療センター小児内科 田中千賀 他
self-healing histiocytosisとして経過をみていたところ再燃し、骨髄染色体でトリソミー8がみられた乳児例が報告された。JLSG-02寛解導入Aが奏効し染色体異常も消失した。
《コメント》本例はself-healing histiocytosisの範疇に入るのか、CD1a(-)/S100(±)細胞の増殖を特徴とする本例の診断はなにか、染色体異常がHistiocytosisの病態に関連するのか、など興味深い症例である。

7 縦隔腫瘤を合併したLCH
近畿大学堺病院小児科 森口直彦 他
JLSG-02に登録され縦隔腫瘤を合併した5例のLCH例がまとめ報告された。CTで石灰化像を認めることが特徴で、予後は1例を除き寛解し比較的良好であった。
《コメント》縦隔腫瘤を伴うLCHの報告は散見されるが、治療や予後について言及した報告はなく貴重な報告と考えられる。

8 LCHにおけるRANK/RANKLの免疫組織学的検討
北九州市立八幡病院小児救急センター 神薗淳司
LCHの組織において、RANK・RANKLを発現する細胞が集族していることが報告された。
《コメント》RANK/RANKLシステムは破骨細胞の分化成熟に必須である。骨病変を伴うことが多いLCHにおいて、RANK・RANKLを発現する細胞が病変部位に集族していることはLCHの病態を考えるうえで興味深い。